研究課題/領域番号 |
15K06694
|
研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
吉崎 嘉一 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 病理学部, 研究員 (50393161)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 言語コミュニケーション障害 / 父親の高齢化 / 次世代エピゲノム継承 / REST/NRSF / 神経発生 / GSEA解析 |
研究実績の概要 |
これまでの疫学研究より、父親の高齢化は、様々な精神疾患や発達障害の発症リスクを増大させることが知られている。申請者らはこれまでに、若齢あるいは高齢の父親マウス由来の仔マウスにおいて、母子間の言語コミュニケーション障害を示すことを見出しており、本研究では、その病態基盤の解明を目的とする。 昨年度は、若齢および高齢の父親マウス由来の胎生期11.5日齢および14.5日齢の終脳における網羅的遺伝子発現解析を実施した。その結果、胎生期11.5日齢および14.5日齢のいずれの時期においても、遺伝子発現が半減あるいは2倍以上変動し、かつ統計的に有意な変化を示すものは同定されなかった。そこで本研究では、Gene Set Enrichment Analysis (GSEA解析)を用いて、遺伝子発現プロファイルにおいて類似の機能およびモチーフをもつ遺伝子群の同定を試みた。その結果、高齢の父親マウス由来の14.5日齢の終脳において遺伝子発現が低下する遺伝子群に胎生前期の遺伝子群(EARLY500)が濃縮しており、一方で、遺伝子発現が増加する遺伝子群に胎生後期の遺伝子群(LATE500)が濃縮することが確認された。さらに、モチーフ解析から、高齢の父親マウス由来の14.5日齢の終脳において遺伝子発現が増加する遺伝子群の制御因子として、神経分化抑制因子であるREST/NRSFを同定した。これらより、高齢の父親マウス由来の終脳において、神経発生が前段的に引き起こされており、REST/NRSFの関与が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに若齢および高齢の精子のDNAメチローム解析の結果より、DNA低メチル化領域においてREST/NRSF結合モチーフを同定した。そこで本年度は神経発生に関わる免疫組織学解析に加えて、胎生期11.5日齢および14.5日齢の終脳において網羅的遺伝子発現解析を実施した。残念ながら、顕著に遺伝子発現が変化している遺伝子を同定することは出来なかったが、GSEA解析より、高齢の父親マウス由来の14.5日齢の終脳において遺伝子発現が増加する遺伝子群の制御因子として、神経分化抑制因子であるREST/NRSFを同定した。これらより、父親マウスの高齢化による精子メチロームへの影響が仔マウスの神経発生を前段化させて、それらの共通した分子基盤としてREST/NRSFが関与する可能性を見出した。これまでの自閉症モデル動物を用いた研究から、REST/NRSFの標的分子の発現低下が病態基盤に関与することが報告されているが[Katayama et al., 2016]、本研究の成果より、REST/NRSFの標的分子の発現増加もまた自閉症の病態基盤に関与する可能性が考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、精子におけるDNAメチローム解析の結果と胎生期における遺伝子発現解析の結果を結びつける分子基盤の解明を目指す。第一に胎生期におけるDNAメチローム解析を実施し、DNAメチル化の変化する領域を同定するとともに、精子DNAメチローム解析との対応について評価する。また、その領域が遺伝子発現に影響する可能性について検討する。また、精子にはタンパク質をコードしないRNAも大量に発現していることも知られており、DNAのメチル化に非依存的な次世代エピゲノム継承の可能性についても検討を進めたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度途中に前職の東北大学から現職の愛知県心身障害者コロニーに異動した。その直後から、実験動物の高齢化を進めたが、実際に実験用にサンプリングするまでに至らなかった。そのため、網羅的遺伝子発現解析の結果のin silico解析を中心に研究を実施したため、必要に応じた消耗品等に掛かる費用を使用しなかった。今年度には、必要な実験動物が揃う予定で在り、それらを使用して昨年度実施できなかった実験を実施する予定である。
|