これまでの疫学研究より、父親の高齢化は、様々な精神疾患や発達障害の発症リスクを増大させることが知られている。申請者らはこれまでに、高齢の父親マウス由来の仔マウスにおいて母子間の言語コミュニケーション障害を示すことを見出しており、本研究ではその病態基盤の解明を目的とする。 昨年度はまず、言語コミュニケーション障害の詳細なシラブル解析を実施し、高齢の父親由来の仔マウスは、若齢の父親マウス由来の仔マウスと比較して、"Down"や"Flat"等の単純なシラブル頻度が増加する一方で、"One jump"や"More jump"等の複雑なシラブル頻度が減少することを見出した。このことより、父親マウスの高齢化は仔マウスの言語コミュニケーションの減少を引き起こすのみならず、言語パターンを変化させることが示唆された。 また、高齢の父親マウスの精子におけるDNA低メチル化が仔マウスの言語コミュニケーション障害の原因であることを検証するために、若齢の父親マウスに対してDNAメチル転移酵素阻害剤を反復投与して精巣におけるDNA低メチル化を誘導し、若齢の雌マウスと交配して得られた仔マウスの言語コミュニケーションについて検討した。その結果、高齢の父親由来の仔マウスと同様に言語コミュニケーションの減少が確認された。さらに、その詳細なシラブル解析を実施し、"Down"や"Flat"等の単純なシラブル頻度が増加することと"One jump"や"More jump"、"One jump + Harmonics"等の複雑なシラブル頻度が減少することを見出した。以上より、父親マウスの高齢化によるDNA低メチル化は仔マウスの言語コミュニケーションの低下および言語パターン異常の原因であることが示唆された。
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