研究課題
私たちは個々のニューロンごとに異なるプロトカドヘリン(Pcdh、細胞接着分子)が発現することを見出した。本研究は、仮説「同じPcdhを発現するニューロン同士で機能的ネットワークを作る」の検証を目的とした。具体的には 、マウス小脳のバスケット細胞―プルキンエ細胞間の神経回路をモデル解析系とし、以下(i)(ii)(iii)を検討した。 (i)同じPcdhを発現するニューロン同士が結合するか? (ii) Pcdh欠損によりネットワーク配線が乱れるか?、(iii) Pcdh欠損により脳機能が異常になるか?本年度は以下の成果を得た。課題(i):昨年度に完成したノックインマウスPcdhb3-tdTomatoマウスの形態学的解析を行った。その結果、本マウスではPcdh-b3の発現パターンと類似したtdTomato発現パターンを示すことが明らかとなった。課題(ii):小脳バスケット細胞でのPcdh-γ欠損マウス(Pcdh-γ flox; PV-Creマウス):小脳バスケット細胞におけるPcdh-γ欠損の影響を調べるため、PV-CreマウスとPcdh-γ floxマウスと交配した。本マウスの小脳を形態学的に解析した結果、小脳サイズの減少およびバスケット細胞数の減少を見いだした。これらの減少は生後2週齢から顕著であった。すなわち、小脳バスケット細胞でのPcdh-γ欠損により小脳神経ネットワークの乱れが示された。課題(iii):小脳バスケット細胞でのPcdh-γ欠損マウスの小脳機能を調べるため、マウス個体レベルでの小脳学習課題を行った。その結果、瞬目反射条件学習では大きな異常は無かった。今後は他の学習課題についても検討する。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画において最も重要となる遺伝子改変マウスの作製が順調に進展している。特に、Pcdhb3-tdTomatoマウスは現在解析を進めており、内在性Pcdhb3の発現パターンと類似したtdTomato発現を観察している。現在、小脳におけるtdTomato発現パターンを発生過程を追って解析している。バスケット細胞やプルキンエ細胞におけるtdTomato発現を認めており、作業仮説「同じPcdhを発現するニューロン同士で機能的ネットワークを作る」を検証するための準備が整っている。さらに、PcdhgへのGFPノックインマウス作製も順調に進んでいる。現在、相同組換えES細胞クローンを取得しており、28年度にはヘテロマウスが得られる見込みである。また、小脳における条件付きPcdh-γ欠損マウスの作製も順調に進展しており、課題(ii)(iii)の解析が着実に進んでいる。
今後も当初の研究計画に従って推進する。特に、遺伝子改変マウスの作製が順調に進展していることから、今後は遺伝子改変マウスを用いた解析も進める。特に、課題(iii) Pcdh欠損により脳機能が異常になるか?については、オランダ・エラスムス医療センターのクリス デ ゼウー教授と密接に相談しながら進める。
本年度は遺伝子改変マウス作製のために必須となる以下3つの実験(分子生物学実験、ES細胞培養、キメラマウス作製)に多くを充てる予定であった。しかし、幸いにも申請していた包括的脳研究支援プログラムの御支援をいただくことができた。これにより、これら実験に要する費用を節約することができた。以上の理由により、次年度使用額が生じた。
次年度は遺伝子改変マウスの作製および解析を行う。作製については上記3つの実験(分子生物学実験、ES細胞培養、キメラマウス作製)に必要な試薬類を購入する。解析については、組織学的解析に必要となる試薬類(抗体など)を購入する。また、次年度はマウス購入数・飼育数が増えることが予想されるため、これにも多くを充てる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Transgenic Res
巻: 25 ページ: 413-424
10.1007/s11248-016-9939-3
J Mol Endocrinol.
巻: 56 ページ: 113-122
10.1530/JME-15-0148.
Neuropsychopharmacology.
巻: 40 ページ: 2475-2486
10.1038/npp.2015.117
Biol Psychiatry
巻: 78 ページ: 485-495
10.1016/j.biopsych.2015.01.017.
http://doujitsu.dept.med.gunma-u.ac.jp/cms/?page_id=16