研究課題
ニューロンは適切なパートナーを識別して神経ネットワークを作る。しかし、個々のニューロンを識別する分子メカニズムには不明な点が多い。私たちは、個々のニューロンごとに異なるプロトカドヘリン(Pcdh、細胞接着分子)が発現する事を見出した(Nat Genet, 2005, JBC, 2006など)。現在、本知見を基にした仮説「同じPcdhを発現するニューロン同士で神経回路を作る」の検証を進めている。具体的には、マウス小脳をモデル解析系とし以下(i)(ii)(iii)を検討している。(i)Pcdh欠損により神経回路が異常になるか? (ii)Pcdh欠損により脳機能が異常になるか? (iii)神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?本年度は、下述のように上記(ii)(iii)が大きく進展した。上記(ii)Pcdh欠損により脳機能が異常になるか?を精査した。これまでに小脳のほぼ全てのニューロンにおいてPcdhを欠損させたマウス(小脳Pcdh欠損マウス)では瞬目条件付け反射学習能には異常がないことがわかっていた。そこで本年度は、小脳Pcdh欠損マウスの運動学習能を調べた。その結果、本欠損マウスでは運動学習能が低下していた。本結果を受けて、運動学習能低下のメカニズム解明を試みた。これまでに本Pcdh欠損マウスにおける小脳サイズの減少およびバスケット細胞数の減少を見いだしている。そこで、これらの形態的変化に伴う機能変化を同定するため、遺伝子発現変化の同定を計画し、進めている。また、上記(iii)神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?にて必要となるPcdh発現細胞可視化マウス(蛍光タンパク質ノックインマウス)の作製・解析が順調に進んだ。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の基盤C研究では、下述のように課題(ii)(iii)が大きく進展した。これが「当初の計画以上に進展している」の理由である。課題(ii)Pcdh欠損により脳機能が異常になるか?は以下のごとく進展した。これまでに小脳のほぼ全てのニューロンにおいてPcdhを欠損させたマウスでは瞬目条件付け反射学習能には異常がないことがわかっていた。そこで本年度は、まず小脳におけるPcdhが運動学習に必要か否かを調べた。その結果、本欠損マウスでは運動学習能が低下していた。つまり、Pcdh欠損により脳機能、具体的には小脳依存的な運動学習能が異常になることが明らかになった。本結果を受けて、運動学習能低下のメカニズム解明を試みた。これまでに本Pcdh欠損マウスにおける小脳サイズの減少およびバスケット細胞数の減少を見いだしている。そこで、これらの形態的変化に伴う機能変化を同定するため、遺伝子発現変化の同定を目指した。現在は、網羅的遺伝子発現解析のために本Pcdh欠損マウスの小脳のサンプリングを進めている。課題(iii)神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?にて必要となるPcdh発現細胞可視化マウス(蛍光タンパク質ノックインマウス)の作製・解析が順調に進んだ。まず、Pcdhb3-tdTomatoマウスを用いて、小脳におけるtdTomato発現パターン(すなわち、Pcdhb3発現パターン)を解析した。その結果、上記の課題(ii)において運動学習への関与が示唆された小脳バスケット細胞においてtdTomato発現が認められた。これは、Pcdhが運動学習能の向上に関与することを支持している。
今後は、2016年度に得られた結果を足がかりとして研究を大きく推進させる。具体的には、小脳におけるPcdh欠損マウスにて見いだした「運動学習能の低下」のメカニズム解明を試みる。これまでに本Pcdh欠損マウスにおける小脳サイズの減少およびバスケット細胞数の減少を見いだしている。そこで、これらの形態的変化に伴う機能変化を同定するため、遺伝子発現変化を同定する。現在は、網羅的遺伝子発現解析のために本Pcdh欠損マウスの小脳のサンプリングを進めている。解析に必要なサンプルが集まりしだい、網羅的遺伝子発現解析を行う。さらに、その結果を定量RT-PCR法やin situハイブリダイゼーション法を用いて確認する。課題(iii)神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?では、上記課題(ii)の結果も踏まえて、小脳バスケット細胞-プルキンエ細胞間の神経回路におけるPcdh発現を調べる。この際には、Pcdh発現細胞可視化マウス(作製済み)を用いる。
当初見込額よりも、わずかに使用額が少なかったため。
適切に使用し、研究を遂行する。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
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