研究課題/領域番号 |
15K06696
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
金子 涼輔 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (40390695)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | プロトカドヘリン / 小脳 / ノックインマウス |
研究実績の概要 |
ニューロンは適切なパートナーを識別して神経ネットワークを作る。しかし、個々のニューロンを識別する分子メカニズムには不明な点が多い。私たちは、仮説「同じPcdhを発現するニューロン同士で神経回路を作る」の検証を進めている。 昨年度までに小脳のほぼ全てのニューロンにおいてPcdhを欠損させたマウス(小脳Pcdh欠損マウス)において以下の知見を得ていた。(a)運動学習能の低下、(b)小脳サイズの減少、(c)小脳の抑制性ニューロン数の減少。すなわち、小脳におけるPcdhは、抑制性ニューロン数や小脳サイズを調節し、それを通じて運動学習の適正化に関わることが示唆された。 今年度は抑制性ニューロンや小脳サイズの調節メカニズムを検討した。まず、抑制性ニューロンの中でどのニューロン種が如何ほど減少しているか?を発生を追って組織学的に解析した。その結果、(A)プルキンエ細胞の密度に変化は無い、(B)ゴルジ細胞の密度に変化は無い、(C)分子層インターニューロン数(ステレイト細胞、バスケット細胞共に)が50%減少する、の知見が得られた。また、分子層インターニューロン数は生後1週以降には減少していることが明らかとなった。次いで、本過程に関わる分子メカニズムとしてアポトーシスの関与を想定し、アポトーシスマーカー(cleaved caspase)の免疫染色を行った。その結果、アポトーシスの亢進が示唆された。また、抑制性介在ニューロン数を簡便に定量する方法(VGAT-tdTomatoマウス)を開発し、これを論文発表した。さらに、神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?にて必要となるPcdh発現細胞可視化マウス(蛍光タンパク質tdTomatoノックインマウス)作製に成功した。本マウスにおけるtdTomato発現細胞の分布はPcdh発現分布に類似していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニューロンは適切なパートナーを識別して神経ネットワークを作る。しかし、個々のニューロンを識別する分子メカニズムには不明な点が多い。私たちは、個々のニューロンごとに異なるプロトカドヘリン(Pcdh、細胞接着分子)が発現する事を見出した(Nat Genet, 2005, JBC, 2006など)。現在、本知見を基にした仮説「同じPcdhを発現するニューロン同士で神経回路を作る」の検証を進めている。具体的には、マウス小脳をモデル解析系とし以下(i)(ii)(iii)を検討している。(i)Pcdh欠損により神経回路が異常になるか? (ii)Pcdh欠損により脳機能が異常になるか? (iii)神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?本年度は、下述のように上記(i)(iii)が大きく進展した。 2016年度までに小脳のほぼ全てのニューロンにおいてPcdhを欠損させたマウス(小脳Pcdh欠損マウス)において以下の知見を得ていた。(a)運動学習能の低下、(b)小脳サイズの減少、(c)小脳の抑制性ニューロン数の減少。すなわち、小脳におけるPcdhは、抑制性ニューロンや小脳サイズを調節し、それを通じて運動学習の適正化に関わることが示唆された。 2017年度は小脳の抑制性ニューロンの中でも、分子層インターニューロンが減少し、それは50%の減少であった。そのメカニズムとして、アポトーシスの関与を想定し、アポトーシスマーカー(cleaved caspase)の免疫染色を行った。その結果、アポトーシスの亢進が示唆された。また、抑制性介在ニューロン数を簡便に定量する方法を開発し、これを論文発表した。さらに、上記(iii)神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?にて必要となるPcdh発現細胞可視化マウス(蛍光タンパク質ノックインマウス)の作製・解析が順調に進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2017年度までに得られた結果(下述)を足がかりとして研究を大きく推進させる。これまでに、小脳におけるPcdh機能として「運動学習能の適正化」「小脳の抑制性ニューロン数の調節」「アポトーシスの制御」が示唆された。「小脳の抑制性ニューロン数の調節」を精査したところ、中でも小脳分子層インターニューロン数(ステレイト細胞、バスケット細胞共に)が減少しており、その減少程度は、驚くことに50%であった。本結果は、ステレイト細胞、バスケット細胞はそれぞれほぼ均一と考えられていた従来の結果を覆す可能性がある。すなわち、小脳分子層インターニューロン(ステレイト細胞、バスケット細胞共に)の中には、Pcdh欠損の影響が異なる、少なくとも2種類の細胞タイプの存在が示唆される。 今後は以下2方針を進める。(ア)上記仮説を検証するため、小脳Pcdh欠損マウスにおいて残存している小脳分子層インターニューロン(ステレイト細胞、バスケット細胞共に)の性質を精査する。さらに、(イ)小脳分子層インターニューロン減少メカニズムを解明する。これまでにアポトーシスの関与が示唆されているため、アポトーシスを阻害することで、アポトーシスの関与を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の実験計画では私達が見いだした知見「小脳のほぼ全てのニューロンにおいてPcdhを欠損させたマウスにおける運動学習の異常」の原因を解明する予定であった。今年度の実験により、その原因を強く示唆する結果が得られた。すなわち、アポトーシスの亢進が原因と考えられた。そのため、本予備的結果をより強固なものとすべく実験を進めているが、その実験に必要となる遺伝子改変マウスの繁殖に時間を要したため、実際の実験は来年度以降に実施することになった。そのために次年度使用額が生じた。次年度使用額は、予備的結果を確実なものとするための実験に必要な人件費と消耗品費として使用する。
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