研究課題/領域番号 |
15K06697
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
倉林 伸博 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40581658)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ダウン症 / 大脳新皮質 / 神経前駆細胞 / アストロサイト |
研究実績の概要 |
ヒト21番染色体のトリソミーが原因となるダウン症の脳では、神経細胞の密度が低下しており、一方でグリア細胞の密度増加が認められる。この一因として、神経細胞やグリア細胞を生み出す神経前駆細胞の分化異常が考えられるが、これら異常に寄与する遺伝子の実体は不明である。本研究では、神経前駆細胞における運命制御に影響を及ぼす21番染色体上の遺伝子の同定を通じ、ダウン症モデルマウスにおいて神経前駆細胞の分化異常が引き起こされる分子基盤の解明を目指す。本年度は、神経前駆細胞における運命制御の中で、グリア細胞への分化プロセスに影響を及ぼす21番染色体上の遺伝子、およびその遺伝子が関与する分子シグナリングの同定を目指した。その結果、ヒト21番染色体上の遺伝子であるDYRK1Aの過剰発現が、神経前駆細胞からアストロサイト(グリア細胞の一種)への分化を促進することを見出した。さらに、ダウン症モデルマウスの神経前駆細胞において認められるアストロサイト分化の亢進において、DYRK1Aの過剰発現が寄与することを明らかにした。一方で、ダウン症モデルマウスの神経前駆細胞において、アストロサイト分化に重要な役割を果たす転写因子STATの制御が異常になっていることが判明した。つまり、STATの活性を制御するリン酸化のレベルが上昇し、それに伴って活性が異常に亢進していた。さらに、このSTATのリン酸化レベルや活性の異常亢進にDYRK1Aの過剰発現が関与していることが判明した。以上の結果から、ダウン症の神経前駆細胞におけるDYRK1Aの過剰発現は、STATの異常亢進を通じてアストロサイトへの分化を促進する、というモデルが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
神経前駆細胞からアストロサイトへの分化を亢進するメカニズムの研究において、当初の予定では、本年度は野生型マウスを用いた実験を計画していた。この実験が予想以上に進展し、責任因子であるDYRK1Aや、その下流因子であるSTATを見出すことができた。さらに、ダウン症モデルマウスを用いた検証にまで進むことができたため、研究の進展は予想以上であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ダウン症モデルマウスにおいてみられる神経前駆細胞の分化異常のうち、アストロサイト分化に関する研究は予想以上の進展を見せた。一方で、神経前駆細胞の自己複製異常に関するメカニズムの解析は予定通り進行中であるので、こちらの研究を当初の計画に基づいて推し進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた実験が想定よりも順調に進み、必要な実験動物や試薬にかかる費用が少なくなったため、経費に若干の余裕が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に使用する実験動物・試薬を購入する際に、物品費に加算して使用する。
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