研究課題/領域番号 |
15K06701
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
葛西 秀俊 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40403232)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | mTOR / マウス / 小脳 |
研究実績の概要 |
Tet-offシステムを用いてプルキンエ細胞特異的に活性化型mTORを発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作製するために、TRE-active mTOR TgマウスとL7-tTA Tgマウスの交配を行い二重Tgマウス(以下、L7-mTOR Tgマウス)を作出した。以下の解析では、コントロールとしてL7-mTOR Tgマウスにドキシサイクリンを投与し、活性化型mTORの発現を抑制したマウスを用いた。 まず、小脳における活性化型mTORの発現をウエスタンブロットによって調べた結果、二週齢より活性化型mTORの発現を検出することができた。さらに、小脳切片におけるリン酸化S6タンパク質の免疫染色によって、mTORC1シグナルの活性化を解析した。その結果、L7-mTOR Tgマウスのプルキンエ細胞においてS6タンパク質のリン酸化の亢進が検出されたとともに、細胞体の肥大化が観察された。L7-mTOR Tgマウスの小脳の形態を経時的に調べたところ、4週齢よりプルキンエ細胞の数が有意に減少し、小脳のサイズが萎縮していることが明らかとなった。これらの結果からプルキンエ細胞におけるmTORC1の恒常的な活性化は神経細胞死を引き起こすことが示唆された。 L7-mTOR Tgマウスにおいてプルキンエ細胞が減少していたことから、個体の運動機能に影響していることが考えられた。そこでロータロッドテストを行ったところ、コントロールマウスと比較してL7-mTOR Tgマウスは運動協調能がやや低下していることが明らかとなった。一方、3 chamber testによって社会行動を調べたところ、コントロールとL7-mTOR Tgマウスとの間で社会性に有意な差は観察されたかった。 このことから、小脳プルキンエ細胞においてmTORシグナルは細胞の生存に重要であることを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、L7-mTOR Tgマウスの作製およびその生化学・形態解析を行う予定であったが、当初の予想よりもマウスの繁殖が順調に進んだために、マウスの行動解析を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、小脳プルキンエ細胞におけるmTORの恒常的な活性化は、プルキンエ細胞の細胞死を引き起こすとともに、細胞体および樹状突起が肥大化していることが明らかとなった。今後はこれらの表現型の分子基盤を明らかにするために、小脳への電気穿孔法による遺伝子導入実験を行う。具体的にはL7-mTOR Tgマウス小脳へRaptorやS6キナーゼなどのノックダウンコンストラクトを導入し、Tgマウスの表現型のレスキュー実験を行う。また、新規のmTORシグナルに関わる分子を探索するために、プロテオミクスやマイクロアレイ解析を行い、L7-mTOR Tgマウスで特異的に発現が変化している遺伝子を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度はプロテオミクス解析ならびにマイクロアレイ解析など、高額な消耗品を必要とする実験を多く行うため、予算の執行計画に変更を加える必要があったため。また、本年度得られた結果を次年度の国際学会にて発表する予定であるため。
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次年度使用額の使用計画 |
プロテオミクス解析試薬およびマイクロアレイ解析試薬。 北米神経科学会へ出席するための旅費。
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