水平眼球運動は、両眼が同じ方向に動く共同性眼球運動(サッケード)と、左右の眼が反対方向に動く非共同性眼球運動(輻輳、開散)に大別されるというのが通念である。このような考え方の基本は左右眼には常に協調した運動指令が送られるとするHering 説を前提としている。サッケードの神経機構については、上丘がその中枢であることが知られ、我々もこれまでその神経回路を解析してきた。しかしながら輻輳運動の神経回路については、これまでほとんど同定されていない。Guittonらはサッケードの中枢である上丘頭側部に、輻輳性眼球運動を誘発する領域があることを示唆し、大塚らは上丘頭側部が近見反射の中枢でもあることを示唆するデータを報告したが,上丘に輻輳中枢が存在することを直接証明した報告はない。 本研究では、麻酔下のネコにおいて、上丘の頭側部を中心に系統的に微小電流刺激を行い,対側眼の内直筋運動細胞に興奮性入力を及ぼす部位の存在を明らかにした。上丘の電気刺激を行うとサッケード系への強力な出力にマスクされ、輻輳に関する刺激効果を検出することは難しいため、上丘からのサッケード出力を伝える経路を切断した標本を作製し、上丘から内直筋への入力様式とその経路について解析を行った。その結果、上丘頭側部の電気刺激により、内直筋運動細胞に2シナプス性の興奮性入力が認められた。また、これまでの解剖学的解析により、動眼神経核に投射することが明らかとなっている動眼神経核の背側部の微小電流刺激により内直筋運動細胞に単シナプス性の興奮性入力の存在が明らかになった。これにより、上丘から内直筋への輻輳性眼球運動に関する入力の存在が示され、それは動眼神経核の背側部を介するものであることが強く示唆された。
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