研究課題
神経筋接合部(NMJ)は運動神経と筋肉細胞を結ぶシナプスで、その形成には運動神経が分泌するagrinによって活性化するLRP4/MuSKシグナル伝達経路が重要であることがわかっている。本研究はNMJにおける分泌型増殖因子の機能を知る事を目標にして、agrin/LRP4/MuSKシグナルが、増殖因子により活性化されるシグナル伝達経路からどのように影響を受けているのかを検討している。最初にヒト胎児腎細胞HEK293でagrin、LRP4、MuSKを過剰発現すると活性化されるATF2-Lucレポーターを指標に、候補となる7つの分泌型増殖因子BMP、IGF、TGFbeta、TNF、hedgehog、VEGF、notchがagrin/LRP4/MuSKシグナルにどのように影響しているかを検討した。その結果、興味深い事にhedgehogシグナル伝達経路に影響する可能性があることがわかった。次にステップ2、このシグナル伝達経路がMuSKたんぱく質に直接、生理的に影響するかどうかについてマウス由来筋管細胞C2C12細胞を用いて検討した。その結果、増殖因子Shhが活性化するシグナル伝達経路を細胞内で阻害しているHPI-1がMuSKに直接作用している可能性が示唆された。それ以外の増殖因子とシグナル伝達経路に関しては、シグナル伝達経路の促進因子と抑制因子の結果に統一性が見られず、今後添加する濃度の選択などより詳細な実験が必要であることがわかった。以上の実験結果から、(1)筋管細胞においてagrin/LRP4/MuSKシグナルシグナル伝達経路やAChRの集積に関わる別のシグナル伝達経路があること、(2)増殖因子Shhが活性化するシグナル伝達経路のうち細胞内の因子がNMJの形成に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度の目標であった「候補となる7つの増殖因子のシグナル伝達経路がAChRの集積に影響するのかを解析する。」については、現在結果を詳細に検討している最中である。一方、次年度の目標であった「興味深いシグナル伝達経路が存在した場合には、ステップ3として各シグナル伝達経路を構成する個々の因子のNMJ形成における機能解析を行う。」という目標に対し、すでに増殖因子Shhの細胞内のシグナル伝達経路が関与している可能性を確認しており、最終目標に対する相対的な達成度合いは「おおむね順調に進展している」と考える。
提出された研究計画に基づき、最終的に「NMJにおける増殖因子の機能を知ることで、神経シナプス形成における増殖因子の役割を知るための基盤となる知識を得る」ことをめざし、shRNAや抑制薬剤などを用いた機能阻害実験を積極的に進めていく。また、リン酸化抗体を用いたウェスタンブロットや標的タンパクの発現量の確認など他の実験方法を用いて各増殖因子の役割を比較・検討をしていきたい。
本年度は化学化合物などを用いウィルスベクターなどの作製を行わなかったため、分子生物学的な実験に用いる消耗品の購入が比較的すくなかった。また学会の参加旅費を計上した。
物品費はshRNAの作製費用、新規の実験方法の準備・施行費に充てていく。また、使用額に計上した旅費を用い、この結果を広く学会などで報告していく方針である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 産業財産権 (1件)
Biochem Biophys Res Commun.
巻: S0006-291X(16) ページ: 30400-4
10.1016/j.bbrc.2016.03.089.
PLoS One.
巻: 10(11) ページ: e0142786
10.1371/journal.pone.0142786.
Sci Rep.
巻: 5 ページ: 13928
10.1038/srep13928.
JAMA Neurol.
巻: 72(8) ページ: 889-96
10.1001/jamaneurol.2015.0853.
Neuromuscul Disord.
巻: 25(8) ページ: 667-71
10.1016/j.nmd.2015.05.002.
Genes Dev.
巻: 29(10) ページ: 1045-57
10.1101/gad.255737.114.