研究課題/領域番号 |
15K06712
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
飯島 香奈絵 (安藤香奈絵) 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (40632500)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 神経細胞死 / 軸索 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
細胞小器官ミトコンドリアは、エネルギー産生に加え、カルシウム濃度の調節、シグナリング、脂質や核酸合成など細胞に必須な役割を担う。ミトコンドリアは能動的に輸送され、細胞内の需要に応じて分布する。ミトコンドリアの分布は脳の機能と構造の統合性に重要であり、その乱れは神経細胞死につながると考えられる。 細胞のストレスに対する反応の多くは核での遺伝子発現によって担われる。しかし、局所的なミトコンドリアの分布が乱れた場合にどのように細胞核に情報が伝達され、またどのような反応が起きるのかは明らかでない。本研究では、ミトコンドリア軸索輸送の阻害によりおきる神経細胞死のメカニズムを明らかにすることを目的とし、申請者らの研究室で同定された候補転写因子 Estrogen-related receptor (ERR) に焦点を当てて検討している。具体的には、(1)シナプス前終末でのミトコンドリア減少に伴うERRの活性の変化と(2)シナプス前終末でのミトコンドリア減少に伴う加齢依存性神経機能低下と神経軸索変性におけるERRの役割、について、ショウジョウバエを用いて研究を進めている。 H27年度は、ERRの遺伝子欠損によって、加齢依存的な脳機能低下が起きることを行動解析から見出した。この結果から、ERRの活性化は加齢依存的な脳機能の低下に対して保護的な役割を持つことが示唆される。また、電子顕微鏡を用いた超微細構造の解析では、ERRの遺伝子欠損によって細胞内の滑面小胞体の蓄積と神経変性が起きることがわかった。また、ATP量を局所的に測定できるFRETを用いたATPセンサーを用いて、ミトコンドリアの軸索輸送の阻害によるATP量の変化を測定し、軸索だけでなく細胞体でもATPが減少することを見出した。H28年度には、ミトコンドリアの局在変化とERR活性化、また ATP量の関連についての解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に目的2について研究を行った。申請者らの研究室で確立されたミトコンドリア軸索輸送の阻害による神経細胞死モデルショウジョウバエ(PLoS Genet., 2012)について、その網羅的な遺伝子発現解析からERRの活性化が示唆された。ERRは幼虫でのエネルギー代謝における役割が知られているが、その脳または加齢における機能は不明である。ERRの欠損変異を持つショウジョウバエを加齢させ、運動能力の年齢による変化を測定したところ、加齢による運動能力低下が正常なショウジョウバエより早い段階で現れた。また、これらの個体の脳の超薄切片を作成し電子顕微鏡解析を行ったところ、神経細胞に空胞などの異常が見られ、さらに滑面小胞体の蓄積が多くの視神経細胞体で見られた。このことから、ERRが神経細胞の構造的な統合性の維持に必要であることが示唆される。 さらに、細胞内の局所的なATP量とミトコンドリアの数の関係を調べるため、ミトコンドリアの軸索輸送阻害により細胞内ATP分布が変化するかを調べた。FRETを用いてATP量を検出できるバイオセンサーを脳神経細胞に発現させ、軸索と細胞体、樹状突起を見やすいキノコ体と呼ばれる部位で解析した。その結果、興味深いことに、ミトコンドリアの数の減少している軸索だけでなく、ミトコンドリアの数が増えているはずの細胞体でも、ATP量の減少が見られた。このことから、ミトコンドリアの密度を保つことも最適なエネルギー代謝のために必要であることが示唆される。 当初は目的1を先に行う予定であったが、目的1で予定していた実験に用いるトランスジェニックショウジョウバエ(ERR-GFP)でその発現がみられなかった。この対策としては、このショウジョウバエを作成した研究室に問い合わせて他の系統の授与を申し込むとともに、標的遺伝子の発現解析など以下に述べる別の方法を用いる。
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今後の研究の推進方策 |
目的1に関して ERRの転写活性を測定するレポーターを用い、ミトコンドリア軸索輸送阻害によりERRの活性が変化するかを調べる。Thummelらにより作成されたGFP融合ERRを用いてその蓄積を調べる予定であったが、その発現が神経細胞で見られなかったため、Krauseらにより作成されたリガンド結合依存的に発現するGFPを用いる。またERRの結合配列をプロモータに持つ複数の遺伝子の発現がトコンドリア軸索輸送阻害によって上昇しているが、これらの発現がERRのノックダウンで変化するかをqRT-PCRによって調べる。
目的2に関して ERRを減少させた時の神経機能低下または神経変性が、神経細胞内のERRによるものであるかを確認するため、神経細胞特異的にRNAiを発現させて脳機能と構造の解析を行う。また、ERRの過剰発現によって、加齢による脳機能低下、ミトコンドリア軸索輸送阻害による脳機能低下と神経変性が緩和できるかを調べる。また ATP量の変化と神経機能低下への関連についてさらに調べるため、加齢依存的な神経細胞内ATP量の変化と、ERR欠損や過剰発現によるATP量の変化をATPバイオセンサーをそれらのトランスジェニックショウジョウバエに発現させて調べる。
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