研究課題/領域番号 |
15K06714
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
鄭 且均 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00464579)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / ATBF1 / APP代謝 / Aβ産生 / 神経細胞死 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の原因遺伝子であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)が、細胞内運送の異常を起こすことでAβ産生が制御され、ADの発症に深く関わっている。APPの細胞内運送機構を明らかにすることはADの発症原因解明に重要である。最近、我々はATBF1が①AD脳で過剰発現することや、②AβはATBF1の発現を増加させ、神経細胞死を誘導すること、③APPと結合しAPPを安定化させることで、Aβの産生を増加させることを明らかにした。本研究では、ATBF1ノックアウトマウス(KO)を用いて神経細胞死及びAPP細胞内運送におけるATBF1の機能を動物レベルで明らかにすることを目的とする。 本年度は、神経細胞死におけるATBF1の機能解析を行うため、妊娠19日目の野生型およびATBF1 KOマウスの胎児を取り出して脳切片を作成した後、TUNEL assay、活性型caspase3の染色、神経細胞染色などを行った。その結果、ATBF1 KOマウス脳における神経細胞死は野生型と比べて差は見られなかった。しかし、マウスの脳から神経細胞を分離・培養しAβ 刺激すると、ATBF1 KOマウス由来の神経細胞は野生型と比べ神経細胞死が抑制された。現在、神経細胞死と関連するATBF1のターゲットを同定するため、妊娠19日目の野生型およびATBF1 KOマウスの脳から神経細胞を分離・培養し、Aβ刺激前後のmRNAを抽出して発現が変動する遺伝子をcDNA microarray法調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、ATBF1 KOマウスの脳組織またはこのマウスから神経細胞を分離しAβ処理した後、神経細胞死およびATBF1のターゲット同定(cDNA microarray法)とAPP細胞内運送およびAβ産生におけるATBF1の機能解析の実験計画を立てて行う予定であった。 まず、神経細胞死は計画とおり行い、ATBF1 KOマウス由来神経細胞をAβ で刺激すると、野生型と比べ神経細胞死が抑制された。すなわち、ATBF1はAβ 刺激によって引き起される神経細胞死を促進することが示唆された。また、野生型およびATBF1 KOマウスの脳から神経細胞を分離・培養し、Aβ刺激前後のmRNAを抽出して発現が変動する遺伝子をcDNA microarray法を用いて調べている。しかし、APP細胞内運送およびAβ産生におけるATBF1の機能解析はATBF1KOマウスの数が十分に得られなかったため少し遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
1)神経細胞死におけるATBF1の機能解析;本年度に行なったcDNA microarrayの結果を基ついて、ATBF1の候補ターゲット遺伝子の機能を調べる。妊娠19日目の野生型およびATBF1 KOマウスの脳から神経細胞を分離・培養し、Aβ刺激後、候補ターゲット遺伝子の発現をreal-time PCRおよびウェスタンブロティングで調べる。 2)APP細胞内運送およびAβ産生におけるATBF1の機能解析;ATBF1 KOマウスとJ20マウスの交配マウスを用いて、次の実験を行なう。①脳の形態及び脳内のAβ量を免疫染色、ELISA法で調べる。②Aβ量の解析。脳組織から可溶性Aβと不溶性Aβを抽出し、それぞれのAβ量をELISA法で定量する。また脳標本を用いてAβ抗体による免疫染色を行い、Aβ沈着の数や大きさを評価する。③APPの細胞内局在を検討する。脳標本を用いてAPPの局在をAPP抗体とゴルジ体、エンドソーム、ライソゾーム特異的な抗体を用いて二重蛍光染色することで確認する。④脳組織またはこのマウスから神経細胞を分離し、分子病態に関連する分子群の発現量をreal-time PCR及びウェスタンブロティングにより定量する。⑤モリス水迷路学習試験による認知機能のテストを行うことで学習能力を評価する。 3)ATBF1の発現を抑制する候補化合物の機能解析;現在、ATBF1の発現を抑制するいくつかの候補化合物を発見しており、この候補化合物をAPP安定化細胞株に処理することにより、神経細胞死、APP代謝、APP細胞内運送およびAβ産生に対する影響を調べ、最終的にはこれらの情報を基盤にした治療薬の開発を目指す。
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