研究課題/領域番号 |
15K06716
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
神保 恵理子 (藤田恵理子) 自治医科大学, 医学部, 講師 (20291651)
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研究分担者 |
桃井 隆 東京医科大学, 医学部, 客員教授 (40143507)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | GPR37 / 自閉性障害 / シナプス接着因子 / CADM1 |
研究実績の概要 |
自閉症スペクトル障害(ASD)は発達障害である。患者に、シナプスに存在する様々な分子の変異が見出されている。その一つに挙げられるGPR37は、Gタンパク質共役型受容体である。これまでの我々の研究からC端のPDZ結合ドメインを介して足場蛋白質と複合体を形成することが明らかとなった。しかしながら、これらが関与する蛋白質複合体とASDの病因との関係はほとんど知られていない。一方、プロサポニンは、細胞内でリソソーム酵素機能の調節因子、細胞外では神経保護作用および神経保護作用を有する分泌因子としての役割を持つ機能蛋白質である。GPR37および、GPR37と相同性の高いGPR37L1は、プロサポニンによって誘導されるシグナル伝達を媒介する。初代神経細胞培養系では、GPR37に比較して、ASD患者由来のGPR37遺伝子変異R558QはMUPP1と弱く相互作用し小胞体に保持され、樹状突起の変化をもたらせた。PDZ結合ドメインを欠くGPR37変異は細胞表面に輸送されるものの、シナプスにおいてMUPP1、PSD-95と複合体形成しなかった。これらから、病因の一つとしてGPR37のASD関連変異によりGPR37複合体の樹状突起上の異常が引き起こされることによる可能性が示された。また、GPR37が発現するオリゴデンドロサイトの分化過程で、GPR37はcAMP依存性によるRaf-MAPK-ERKシグナル伝達経路の活性化を調節する可能性があり、細胞種により多様な働きを担うものと考えられる。患者のGPR37L1遺伝子変異解析を行った結果、5種類のSNP変異が検出され、その中に蛋白構造に変化をもたらし、疾患に関与すると推測される1種類が存在した。患者遺伝子において、GPR37やGPR37L1以外の主要なASD関与遺伝子に変異が含まれるか否かをエクソーム解析で調べたところ、該当遺伝子は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GPR37変異がこの複合体形成へ与える影響を示すことができた。GPR37正常および変異R558Qを安定発現させたHEK293細胞およびP19細胞株等を得ており、プロサポニンが関わるシグナル伝達について、さらに解析を進めていく。しかしながら、GPR37変異R558Qノックインマウスの作製にあたり、gpr37(R558Q)のターゲティングベクター導入後のES細胞スクリーニングで得られた細胞に異常が見られたことから、再度工程を行う必要があり、個体作出までに時間がかかっている。そのため、GPR37欠損マウスを用いることも視野に入れ、実験を遂行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1) GPR37変異ノックインマウスを作成する。もし、個体作出まで時間がかかるようであればGPR37欠損マウスを用いることも視野に入れ、実験を行う。マウス脳における複合体構成に及ぼす影響を調べる。
2) GPR37L1についてもGPR37と同様に、ASD患者における遺伝子変異解析で見出した変異について、発現ベクターに組み込み、哺乳類細胞および大腸菌に発現させ、GPR37L1に対するNLGN-PSD95、CADM1-MUPP1両複合体との結合を解析する。
3) GPR37正常および変異R558Qを安定発現させた細胞株を用いて、生存因子またはリガンドでもあるプロサポニンの結合能低下をERKのリン酸化により解析する。GPR37の変異が、プロサポニンのシグナル伝達系(PLC-P13キナーゼ等の活性化等)へ及ぼす影響について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
GPR37変異ノックインマウスが得られた後の解析に使用する予定であった免疫染色用抗体などについて、マウス個体作出が遅れていることから、それらの支出にずれが生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
今後、GPR37変異ノックインマウス解析のために、抗体等の消耗品の購入を予定している。
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