1.単独または複数によるインプリンティング行動の比較 自然環境下では、ほぼ同じ時期に孵化した複数のヒナが親鳥に対してインプリンティング行動を示すが、実験室で行うこれまでの実験では、一羽ずつインプリンティングの行動実験を行っていた。そこで、ニワトリのヒナを用いて液晶画面に映した動く図形をインプリンティングの刺激として、一羽または二羽でインプリンティングのトレーニングを行った場合について、インプリンティングの成立を比較解析した。その結果、もう一羽のヒナが右側か左側のどちらにいるかで影響が異なるが、二羽の方がインプリンティングが促進される条件があることが明らかとなった。 2.インプリンティングの成立時期の前後で発現が変化する遺伝子について DNAマイクロアレイの結果で発現が変化していた候補遺伝子について、発現量変化をリアルタイムPCRにより調べた。その結果、特に顕著に発現量が変化するペプチドが発見された。このペプチドファミリーに属するもの、さらに3種類の受容体は、扁桃体にも発現が見られた。扁桃体の破壊実験を行うと、インプリンティング行動が成立しない傾向がみられているので、このペプチドの扁桃体での発現がインプリンティング行動に重要である可能性が示唆された。鳥類においてはこれらの受容体遺伝子はデータベースに登録があるものの、機能は未確認であったため、HEK293細胞に発現させて上記のペプチドファミリーに属するペプチドの作用について調べた。その結果、生理的濃度のペプチドはこの受容体に働き、セカンドメッセンジャーであるcGMPが産生されることがわかった。 このペプチドファミリーの記憶・学習行動や、社会性行動の発現や発達における役割はあまり知られていない。そのため、扁桃体での役割についてさらに研究を進めることで、社会性の発達に関する新たな知見が得られることが期待できる。
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