研究課題/領域番号 |
15K06720
|
研究機関 | 駒沢女子大学 |
研究代表者 |
佐藤 勝重 駒沢女子大学, 公私立大学の部局等, 教授 (80291342)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 光学イメージング / 膜電位感受性色素 / 機能発生 / 機能構築 / 嗅覚回路網 / 嗅球 / 胎生期 / 鶏胚 |
研究実績の概要 |
地球上の生物は、嗅覚や味覚、視覚など様々な感覚機能を駆使し、食物になりうる物質の品質を評価している。このような能力は、何も成体に限られた能力ではなく、一般に生物は、生後まもない時期から口に入れたものが、自分にとって好ましいものであるか否かを識別する能力を未熟ながら備えている。これは、様々な感覚情報を処理する神経回路網が、出生時にはすでにある程度発達していることを示唆している。では、こうした食物の品質を評価する能力は、個体発生過程でどのようにして形成されるのだろうか?この命題に対する生理学的アプローチは、個体発生期の中枢神経系を構成するニューロンが小さく、また機械的にも脆弱であるため、従来の電気生理学的方法を適用することが困難であるという方法論的制約から、まだ十分に進んではいない。 本研究は、個体発生過程、特に胎生期の嗅覚神経回路網に焦点をあて、①膜電位感受性色素を用いた神経活動の光学的イメージング法による機能的マッピングと、②カーボシアニン系蛍光色素やrhodamine dextranを用いた形態的マッピング との比較から、(1)嗅覚神経回路網の機能発生・構築過程のプロフィルを明らかにすることを目的とする。さらに、(2)嗅覚と味覚の感覚情報の統合処理機構が、個体発生の過程でどのようにして形成されていくのか、という命題について、その解析法の開発と展開を試みる。 平成27年度は、「嗅神経の電気刺激により嗅覚系に誘発される光学応答の基本パターンの解析」を行った。神経活動の光学的イメージング法では、光学的シグナルの波形の解析から、シナプス後電位を時間経過の遅いシグナルとして同定することができる。そこで、孵卵9-10日を中心に嗅神経―嗅球―終脳標本を作成し、これらを膜電位感受性色素NK2761で染色し、嗅神経を吸引電極で刺激することによって得られる光学応答を解析して、嗅球および終脳内で応答領域の同定に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、個体発生過程、特に胎生期の嗅覚神経回路網に焦点をあて、①膜電位感受性色素を用いた神経活動の光学的イメージング法による機能的マッピングと、②カーボシアニン系蛍光色素やrhodamine dextranを用いた形態的マッピング との比較から、嗅覚神経回路網の機能発生・構築過程のプロフィルを明らかにすることを第一義の目的としているが、本年度はその基本データを取ることに成功した。実験計画は、ほぼ順調に進んでおり、今後の研究遂行の上での問題点は今のところ見当たらない。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きまずは、「嗅神経の電気刺激により嗅覚系に誘発される光学応答の基本パターンの解析」を進める。ラット/マウス胎仔に比べて、鶏胚では嗅神経が長く、刺激が容易であるなど、実験上の利点があるため、さまざまな発生段階の鶏胚を用いて実験を行ない、基本データを得る。それを元にラット/マウス胎仔で解析を進める。具体的には以下の項目を遂行する。 (1)嗅神経刺激により誘発される応答領域の同定: 嗅神経―嗅球―終脳標本を膜電位感受性色素NK2761で染色し、顕微鏡の焦点面をz軸方向に移動させて"optical sectioning"を行うことにより、光学的三次元機能マッピングを行う。 (2)トレーサーを用いた形態学的観察: (1)で用いた標本をトレーサーで染色して形態学的観察を行い、機能マッピングの結果と比較して、嗅覚回路網を構成する神経核の同定を行う。 (3)シナプス応答の起源の同定: 神経活動の光学的イメージング法では、光学的シグナルの波形の解析から、シナプス後電位を時間経過の遅いシグナルとして同定することができる。そこで、(1)および(2)と同様の実験をさまざまな発生段階の標本を用いて行い、ニューロンの活動電位、興奮性シナプス後電位、抑制性シナプス後電位を分離し、その機能発生・構築過程を調べる。 (4)疎水性膜電位感受性色素による測定: 疎水性膜電位感受性色素で嗅神経末端だけを染色し、嗅球におけるシナプス前応答を独立して記録する。得られた結果を、(3)の結果と比較し、興奮性および抑制性シナプス応答の詳細な分析を試みる。 (5)Oscillatory activityの検出と起源の同定: oscillation応答は、嗅覚情報処理に関係することが示されているが、その検出を試みる。さらには、個体発生に伴いどのように応答が変化するか、起源はいつか、などを解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現在使用している光学イメージングシステムの制御コンピューターは、OSがWindows95で処理速度が極端に遅く、効率的な実験のために新しい制御システムに変更することが急務である。しかしながら、単年度の予算ではこれをまかなうことができず、来年度の予算と合わせてこれを購入する必要があるため、本年度分は予算執行を必要最小限にした。
|
次年度使用額の使用計画 |
光学イメージングシステムの制御コンピューターを、最新の機器に更新してデータの処理速度を速め、研究の遂行に滞りがないようにする。
|