地球上の生物は、嗅覚や味覚、視覚など様々な感覚機能を駆使し、食物になりうる物質の品質を評価している。このような能力は、何も成体に限られた能力ではなく、生物は生後まもない時期から口に入れたものが、自分にとって好ましいものであるか否かを識別する能力を未熟ながら備えている。これは、様々な感覚情報を処理する神経回路網が、出生時にはすでにある程度発達していることを示唆している。では、こうした食物の品質を評価する能力は、個体発生過程でどのようにして形成されるのだろうか? この命題に対する生理学的アプローチは、従来の電気生理学的方法の方法論的制約から、まだ十分に進んではいない。 本研究は、個体発生過程、特に胎生期の嗅覚神経回路網に焦点をあて、①膜電位感受性色素を用いた神経活動の光学的イメージング法による機能的マッピングと、②カーボシアニン系蛍光色素やrhodamine dextranを用いた形態的マッピングとの比較から、嗅覚神経回路網の機能発生・構築過程のプロフィルを明らかにすることを目的として行われた。 平成27年度には、「嗅神経の電気刺激により嗅覚系に誘発される光学応答の基本パターンの解析」を行い、光学シグナルの波形解析から、嗅球および終脳内でのシナプス応答領域の同定に成功した。平成28年度には、「胎生期の嗅覚系に誘発されるoscillatory activityの基本パターンの解析」を行い、鶏胚嗅球からoscillatory activityの光学的検出に成功した。平成29年度には、「胎生期の嗅覚系に誘発されるoscillatory activityのダイナミズムの解析」を行い、oscillatory activityの発現時期と発生に伴うパターンの変化を解析した。全期間を通した本研究の遂行により、胎生期の中枢神経系における嗅覚神経回路網の機能発生・発達過程の一端が明らかとなった。
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