研究課題/領域番号 |
15K06722
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
川口 真也 同志社大学, 研究開発推進機構, 准教授 (00378530)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シナプス / 軸索 / 活動電位 / イメージング / 膜電位 |
研究実績の概要 |
神経細胞の軸索は1マイクロメートル程度と小さく、1ミリ秒以下の活動電位を伝導する微細構造・高速機能部位であるため、軸索でどのように活動電位の伝播が調節されるかはよく分かっていない。本研究は、軸索での動的情報処理の実体を明らかにし、神経回路の情報処理の柔軟性の基盤となる新たな仕組みを見出すことが目的である。その達成には、複雑に分岐する軸索での情報伝達の変化を同時に多点で解析する必要がある。そこで、活動電位を検出する膜電位感受性蛍光タンパク質を開発し、軸索における活動電位の伝播を高い時空間解像度で計測できるようにする。そして、軸索からの直接パッチクランプ記録と蛍光イメージングを組み合わせることにより、軸索における動的な情報処理機構を分子・細胞レベルで明らかにする。 本年度は、当初予定通りにプルキンエ細胞が別のプルキンエ細胞に形成するシナプスで見られる短期促通の主要なメカニズムとして、シナプス前部からの直接記録を行うことにより、電位依存性Ca電流の促通が重要であることを見出した。このCa電流促通によるシナプス伝達の促通機構は、プルキンエ細胞が小脳核細胞に形成するシナプスにおいても同様に作動しうることも分かった。この小脳核シナプスの場合には、活動電位が長い軸索を伝播して終末に到達する際にその振幅が減弱するために、シナプス伝達は促通ではなく抑圧されると考えられた。以上の標的依存的な短期シナプス可塑性のメカニズムについて、学術誌に発表した(Diaz-Rojas et al., J Physiol. 2015)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定通りに、プルキンエ細胞からの出力シナプスに関して、標的細胞の種類の違いに応じて短期シナプス可塑性が異なるメカニズムを明らかにし、学術誌に発表することができた。 また、活動電位をイメージング記録することを目指して開発している細胞膜電位依存性の蛍光タンパク質の開発に関して、軸索部への輸送を促進させる分子改変を試みた。その結果、プローブ分子の軸索での局在が増加し、軸索部およびその終末部において、活動電位の発生を蛍光強度の変化として検出することに成功した。 したがって、当初予定した通りに研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、改良を進めてきた膜電位蛍光プローブ分子によるイメージングと、軸索および終末からの直接パッチクランプ記録を適宜組み合わせながら、軸索・終末に局在する伝達物質受容体を同定し、その機能的な役割を検討することを考えている。 そのために、GABAやグルタミン酸などのケージド化合物を軸索部で局所的に活性化するスポットレーザーシステムを構築する。そして、伝達物質受容体を介して直接軸索・終末がどのように活動調節されるかを明らかにし、軸索部での動的な情報処理メカニズムを包括的に理解することを構想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な消耗品を日常的に節約して使用し、また前年度からの残りが利用可能であったため、当初想定より支出を節減することが出来た。また、出張にかかる旅費に関しては、別経費で手当てすることが出来たため、節減することが出来た。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き、研究の無駄を省くことで助成金の有効利用を図るとともに、そうした無駄を削減することにより生まれる余裕に関して、研究の進展状況に照らして新たに必要性が増してきた機器の購入など、少しでもより効果的な助成金の使途を考慮する。
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