研究課題/領域番号 |
15K06727
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今野 大治郎 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 客員研究員 (00362715)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経前駆細胞 / 大脳皮質 |
研究実績の概要 |
本年度は、哺乳類大脳皮質の発生に必須の転写因子であるDmrt3およびDmrta2が如何にして大脳神経前駆細胞に特徴的な遺伝子発現を制御しているのかを明らかにするため、これまで行ってきたクロマチン免疫沈降法と次世代シーケンサーを用いた解析(ChIP-seq法)により得られたデータのより詳細な解析を進め、大脳神経前駆細胞においてDmrt3およびDmrta2が結合するゲノム領域の同定を試みた。その結果、Dmrt3およびDmrta2は、これらの因子を欠損した神経前駆細胞で発現が大きく変動する遺伝子であるPax6およびGsx2の転写終結部位からそれぞれ下流に6kbおよび22kbのゲノム領域に結合していることが明らかになった。そこで、これらのゲノム領域が大脳皮質神経前駆細胞においてどのような機能を担っているのかを明らかにするため、遺伝子発現の調節に関わることが知られている各種ヒストン修飾(H3K4me1, H3K4me3, H3K27ac, H3K27me3)に対する抗体と野生型マウス胎児脳を用いたChIP-seq法による解析を行った。その結果、Dmrt3およびDmrta2が結合するGsx2およびPax6遺伝子近傍のゲノム配列は、活性化エンハンサー部位に特徴的なヒストン修飾であるH3K4me1およびH3K27Acの共局在が確認された。以上の結果から、マウス大脳発生期においてDmrt3およびDmrta2は、大脳発生に必須の転写制御因子であるGsx2およびPax6の発現を制御するエンハンサー配列に直接結合し、これらの因子の発現を完全に抑制もしくは減少させることで、大脳皮質神経前駆細胞としての運命決定プログラムを発生時間の進行に応じて正常に作動させるよう機能していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
胎生期大脳皮質神経前駆細胞におけるDmrt3およびDmrta2の機能を正確に解析するためには、大脳発生時にシグナルセンターとして機能する胎生期終脳原基の内側周辺部 (Cortical hem)の形成不全に起因する表現型を回避出来るような条件的遺伝子欠損マウスの作製が不可欠であった。そこで本研究課題では当初、Cortical hem領域を除いた神経前駆細胞でCreリコンビナーゼを発現するNestin-Creマウスを条件的遺伝子欠損マウスの作製に用いていた。しかしながら、Nestin-CreマウスにおけるCreリコンビナーゼの発現タイミングがDmrt3およびDmrta2の発現開始時期より遅かったことにより、Dmrt3/Dmrta2の発現が強い脳発生初期での遺伝子発現を抑制させることが出来なかった。そこで計画内容を一部変更し、Nestin-Creマウスと比べ脳発生のより早期(マウス胎生9-10日)からCortical hem以外の大脳領域でCreリコンビナーゼの発現が認められるFoxg1-IRES-Creマウスを入手し、Dmrt3/Dmrta2条件的遺伝子欠損マウスの解析を進めた。現段階ではまだ予備的なデータではあるが、Foxg1-IRES-Creを用いたDmrt3/Dmrta2条件的遺伝子欠損マウスはCortical hemの形成は正常でありながらも、大脳皮質形成においては顕著な異常が認められ、その表現型はDmrt3/Dmrta2二重欠損マウスで観察される表現型と類似したものであった。これらの結果は、Dmrt3/Dmrta2がCortical hemの形成を介した大脳皮質発生におけるWntシグナルの調節という細胞非自律的な機能だけでなく、大脳神経前駆細胞の維持・分化メカニズムにおいて細胞自律的な機能も併せ持っていることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
新たに導入したFoxg1-IRES-Creマウスを用いたDmrt3/Dmrta2条件的二重遺伝子欠損マウスの表現形の解析を継続するとともに、これまで解析を行ってきたDmrt3/Dmra2変異細胞における網羅的遺伝子発現解析のデータ分析をさらに進め、Dmrtファミリー転写因子群を中心とした大脳神経前駆細胞における細胞アイデンティティーの獲得・維持機構の全容解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)条件的遺伝子欠損マウスの作製に使用したNestin-Creマウスにおいて、Creリコンビナーゼの発現タイミングがDmrt3およびDmrta2の発現開始時期より遅かったことにより、予定していた表現型観察の時期においても目的遺伝子の発現が完全には抑制されていなかったことから、当初の目的を達成するための表現型観察が出来なかった。そのため、遺伝子欠損に用いるCreリコンビナーゼマウスをNestin-CreからFoxg1-IRES-Creに変更することとなったため、実験計画に遅れが生た。その結果、当初使用予定だった予算を次年度分へと移行させる必要が生じた。
(使用計画)実験計画の修正に伴う購入試薬・機器等の再選定を速やかに実施するとともに、当初の実験計画に必要な経費と併せて、研究計画の遂行に支障が生じないよう予算の適正な使用に努める。
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