哺乳類大脳皮質の発生過程において、神経前駆細胞が適切なタイミングで適切な細胞運命を獲得するメカニズムは、大脳皮質を構築する多様な神経細胞の産生を支える最も基本的なメカニズムの一つである。我々は本研究課題を通して、Dmrtファミリー転写因子群がこれら大脳神経前駆細胞の運命獲得に重要な役割を担っていることを明らかにした。本年度はこれらの研究成果を取りまとめ、論文投稿の準備および投稿後の査読者からのコメントに対応すべく各種実験を行った。具体的には、①Dmrtファミリー転写因子のターゲット配列として我々が同定したGsx2およびPax6ホメオボックス遺伝子のエンハンサー配列への結合が直接的であるか否か、また、②Dmrtファミリー遺伝子の欠損もしくは発現抑制がShhシグナリング関連遺伝子の発現に及ぼす影響、の2点を中心に解析を進めた。①については、Dmrtファミリー転写因子が結合すると推測される配列(Dmrt-BS)を欠損したGsx2およびPax6遺伝子エンハンサー配列を持つEGFPリポータートランスジェニックマウス(TG)を作製して検証した。その結果、Dmrt-BS欠損TGマウスにおいてもEGFPの発現パターンおよび発現強度は野生型配列を用いた場合と比較して顕著な違いは認められなかった。これらの結果は、Dmrtファミリー転写因子によるGsx2およびPax6遺伝子の発現抑制は非直接的もしくは複数箇所への直接結合による相互補完的な機構であることが推測された。また、②については、Dmrt遺伝子をsiRNAによりノックダウンした細胞をセルソーターで回収し、Shhシグナリングに関与することが知られている各種遺伝子群の発現変動をRT-qPCR法に解析した。その結果、Dmrt遺伝子の発現抑制によるShhシグナリング関連遺伝子群の顕著な発現変動は認められなかった。
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