研究課題/領域番号 |
15K06730
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
関口 正幸 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第四部, 室長 (80260339)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内環境受容 / 脂肪肝 / 不安様行動 / 条件性恐怖記憶 / 迷走神経 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、前年度に得られた知見をベースとして、「内環境」と条件性恐怖記憶や不安行動などの負情動の関係を更に詳細に検討すべく研究を進めた。 この目的のために、高脂肪食短期(5週間)摂取のみにより肝臓に脂肪蓄積を引き起こしたマウス(脂肪肝マウス)を用意し、このマウスに対して情動行動試験(条件性恐怖記憶、不安行動、うつ様行動等)を行った。なお、脂肪肝マウスにおいては、コントロールマウス(通常餌摂餌)の約8倍程度の中性脂肪が肝臓に蓄積していることを確認した。情動行動に関して、条件性恐怖記憶(Contextual fear conditioning)は脂肪肝マウスとコントロールマウスで有意な差はなかったが、不安様行動(Hole-board test)は脂肪肝マウスで強く亢進していた(うつ様行動に関しては現在検討中)。 次に、更にシビアな脂肪肝を誘発するために、上述の脂肪肝マウスに転写因子PPARr肝特異的過剰発現(アデノウイルスベクターの静脈注による)を行ったマウスを用意した。このマウスにおいて肝臓の中性脂肪値はコントロールマウス(通常餌)の15倍程度まで増加していた。この「超」脂肪肝マウスでは条件性恐怖記憶もコントロールマウスに比べて有意に低下した。この低下は迷走神経肝臓枝切除マウスでも見られた。 以上の結果は、肝臓への脂肪蓄積という臓器異常とその程度により、特定の情動脳機能に選択的に変化が現れることを示している。近年、脂肪肝・肥満とうつ病などの関係が指摘されているが、本研究で得られた脂肪肝からのシグナルに起因する高次脳機能の変化がこれに関与しているかどうか、今後の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデル動物の作成が順調に推移し、肝臓への脂肪蓄積という臓器における異常とその程度が特定の情動脳機能に選択的に変化をもたらすこと、を見出せたことが理由である。 特に、恐怖と不安が肝臓への脂肪蓄積により独立して変化する点は、内環境受容と高次脳機能の間のこれまで未知だった関係の一端を示す意外なデータであり興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪肝という臓器変容についての情報が中枢に伝わるまでのルート(回路)を特定することを今後の目的として研究を推進する。この目的のために、カプサイシン処理による求心性迷走神経肝臓枝変性術や、迷走神経の中枢への入り口である延髄孤束核におけるc-Fos以外の神経活動依存性遺伝子の発現解析法などを確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加や物品購入予定が変更となった
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次年度使用額の使用計画 |
学会参加費や物品購入費として使用する予定
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