研究課題
恐怖情動と密接に関係する情動要素である不安情動を修飾する内環境受容回路として「肝臓ー迷走神経肝臓枝ー延髄孤束核ー分界条床核」という回路の存在が示唆された。この神経回路は高脂肪食+転写因子PPARγ肝臓特異的発現による肝臓への脂肪異常蓄積によりその活動が惹起され、分界条床核の活性調節を介して個体の不安レベルに影響をもたらすと考えられた。同様な不安レベルへの影響は、高脂肪食+当該転写因子アゴニスト腹腔内投与によっても引き起こされた。これら不安レベルへの影響は、迷走神経肝臓枝の切断手術または同肝臓枝のカプサイシン処理により完全に消失することにより、求心性迷走神経肝臓枝を介する可能性の高いことことが示唆された。なお、延髄孤束核や分界条床核の活動はΔFosB遺伝子発現を免疫組織化学的に検出することにより評価した。ΔFosB遺伝子は神経活動に呼応して数日のタイムスパンで発現タンパク質量が積算される性格を有しており、今回の我々の検討におけるような数日間という長いタイムスパンでのターゲット部位神経活動状況のモニターに好都合である。これまで、肝臓状態変化による脳高次機能の修飾に関しては、肝臓から放出された液性因子による血流を介した情報伝達の重要性が知られていた。我々の今回の成果はこの既存メカニズムに加えて、肝臓から脳への自律神経情報も脳高次機能の変化を引き起こすことができる、という全く新しい概念を提示するものである。慢性肝疾患においてはうつ病などの精神疾患の併発頻度が高いことが知られているがそのメカニズムは不明である。今回得られた自律神経を介する肝臓と不安情動のリンクは、このような併病性に関わっている可能性も考えられる。
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