研究課題/領域番号 |
15K06736
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
渡辺 啓介 新潟大学, 医歯学系, 講師 (20446264)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経発生 / 大脳辺縁系 / 恐怖行動 |
研究実績の概要 |
動物には経験・学習に基づかない本能行動がみられることから、その一連の行動を制御する神経回路が発生期に形成されることが考えられる。私たちは膜タンパク質Dpy19L1について注目してきたが、Dpy19L1ノックアウト(KO)マウスは恐怖・不安反応が著しく減弱していることを見出した。そこで本研究では、Dpy19L1の分子機能とその遺伝子異常による脳構築、さらに恐怖関連行動などの行動がどのように決定されるのかを解明することを目的としている。現在、以下の研究計画を進行中である。 ① In situ hybridization法を用いた組織学的解析の結果、Dpy19L1 KOマウスにおいて、恐怖・不安反応に深く関わる三角中隔核 (TS)および前交連床核 (BAC)に顕著な神経核形成異常が見られることがわかった。さらに、その形成異常は胎生17日目に観察されたことから、Dpy19L1は発生期のTS・BACの形成に必須であることが示唆された。また、後部中隔核であるTS・BACの発生を調べる過程において、その産生領域はこれまで報告されている前部中隔核とは異なる領域から産生され、前方に移動することを新たに見出した。 ②Dpy19L1の細胞内での局在・機能を明らかにするため、マウス胎仔期の培養神経細胞を作製し、細胞内局在を検討したところ、小胞体膜に局在することがわかった。さらに培養神経細胞において、Dpy19L1 siRNAによるノックダウン実験を行った結果、軸索伸展が著しく阻害されたことから、Dpy19L1が神経細胞の突起伸展に促進的に働くことが示唆された。 これまでの結果から、Dpy19L1は後部中隔核の神経回路形成を制御することで、先天的な恐怖行動の誘発に深く関わっていることが示唆された。またDpy19L1は神経細胞の突起伸展や細胞移動を制御することで、発生期の神経回路構築に関わる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験計画 ① Dpy19ノックアウトマウスを用いた個体レベルでの解析はおおむね計画通りに進展している。Dpy19L1ノックアウトマウスが示す本能的な恐怖行動異常に関連すると思われる脳領域に顕著な細胞構築異常がみられることがわかった。さらに様々な発生ステージでの組織学的解析を行い、研究を進展させることができた。 実験計画 ②培養細胞を用いたDpy19L1の細胞内局在および機能解析についても、計画通りに遂行した。平成28年度は培養神経細胞を用いたDpy19L1の機能阻害実験が大きく進展した。本計画は培養細胞を用いた実験であるため、計画に遅れることなく、研究を遂行することができた。この結果は、PLOS ONEに発表を行った(Watanabe et al., 2016)。以上の点から順調に研究を遂行できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は以下の実験計画を進める。[実験計画①-1]後部中隔核の産生領域の同定。[実験計画①-2]後部中隔核特異的Dpy19L1 ノックアウトマウスの作製と表現型解析。[実験計画②] Dpy19L1作用機序の解析。[実験計画①-1]については、平成28年度に得られた結果から示唆された新たな後部中隔核(TS・BAC)の産生領域をin utero electroporationを用いることで詳細に検討する。[実験計画①-2]は、後部中隔核の産生領域特異的にDpy19L1をノックアウトすることで、領域特異的Dpy19L1ノックアウトマウスを作製する。その後、恐怖行動異常が見られるかを検討する。[実験計画②]については、Dpy19L1は糖転移酵素であり、ガイダンス分子netrinシグナルとの関連性が報告されたため、netrinシグナルとの関連性を生化学的、組織学的手法を用いて検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度1-3月の動物飼育費について、年度内に明細の検収は完了していたが、支払いが平成29年4月となったため、平成29年度に使用する必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由により、繰越しの必要が生じたが、研究計画自体は前年度に実施済みである。
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