本研究は神経変性疾患に関与すると考えられる遺伝子産物、特に転写制御因子のSUMO化を解析し、その機能と神経変性への関与を解明することを目的とする。我々は家族性パーキンソン病の原因遺伝子parkinの産物であるユビキチンリガーゼParkinの新たな基質として同定されたKRAB-Znフィンガー転写抑制因子PARIS/ZNF746がSUMO化されることを明らかにした。PARISはヒトのパーキンソン病患者の脳に蓄積し、転写コアクチベーターPGC-1αとその標的遺伝子の発現を抑制することによりドーパミン神経の変性に深く関与していることが示されている。しかし、PARISの転写抑制の制御機構はほとんど明らかにされていない。我々はヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞においてPARISのSUMO化はPGC-1α遺伝子プロモーターにおける転写調節に働くこと、さらにSUMO E3リガーゼPIASyは特異的にPARISのSUMO化を促進し、転写活性を制御することを明らかにした。 本年度はさらにPARISのSUMO化とユビキチン化の関係を解析した。COS7細胞においてプロテアソーム阻害剤MG132によりPARISのSUMO化、特にSUMO2/3化が顕著に亢進した。一方、HeLa細胞においてはSUMO化されたPARISはユビキチン化の亢進が認められた。これらの結果はSUMO化依存的ユビキチンリガーゼの関与を示唆し、実際にRNF4の強制発現はこのユビキチン化を促進した。一方、SUMOリガーゼPIASyはユビキチン化を抑制した。さらにRNF4とPARISの相互作用を解析したところRNF4とPARISの結合を確認した。変異解析により、この結合はPARISのSUMO化とRNF4のSIM(SUMO-interacting motif)に依存しなかったが、PARISのRNF4結合領域はC末端領域のZnフィンガードメインであることを明らかにした。以上の結果はPARISのParkin以外によるユビキチンリガーゼによるタンパク質分解系を明らかにすると共に、SUMO化によるPARIS新たな機能制御を明らかにした。
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