研究実績の概要 |
胎児期に発達する視蓋の多層構造は、放射状方向と接線方向への細胞移動を介して構築される。我々は15層の層構造を発達させるニワトリ視蓋層形成に注目して、発生中期の視蓋の中間層と浅層での様式の異なる2種類の接線方向への細胞移動の概要を明らかにしている。本年度の研究では、浅層での接線方向細胞移動の挙動の解析の結果を報告する。 ニワトリ胚E5.5の視蓋脳室帯の一角をGFP標識した後、放射状方向移動を経てE7.0に浅層に達した標識細胞の接線方向への動きを、3日間にわたって組織培養してタイムラプス撮影した。標識細胞の一群は、視蓋浅層を始めは背腹軸方向に、やがて全方向性に広範囲に拡散していった。個々の移動細胞は、先端が分岐する先導突起を伸縮させながら進み、核・細胞体が分岐点まで移動すると選択された一方の突起を先導突起として伸長させ、もう一方の突起を後続突起として取り込みながら方向転換をする一連のサイクルを繰り返して移動していた。移動細胞同士が出会った際には、すれ違ったり立体交差して、互いに反発するよりは避け合いながら広い領域に拡散していく様子が捉えられた。また視蓋の周縁部では、移動細胞が被蓋との境界線に達すると先導突起を引っ込めて方向転換して、境界外への逸脱を避ける動きを示した。移動細胞の数や移動速度は少しずつ低下しながら1週間ほど持続し、最終的には視蓋浅層全体に分布して様々な形態を持つ神経細胞(HuC/D, NeuN陽性)に分化した。こうした分岐する先導突起を駆使した移動細胞の動きが、視蓋全体への一様な神経細胞の分布に寄与することが示唆された。
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