研究実績の概要 |
平成28年度末の段階で、鳥類の頚髄に特異的に認められる発生早期に一過性に現れ細胞死によって消失してしまう運動神経細胞群について以下のことが明らかとなっていた。(1)この細胞群はFoxP1陽性を示すが、FoxP1そのものは細胞死影響を与えないこと、(2)Bcl2の強制発現により不死化すると、外側運動神経核(四肢を支配する運動神経群)のマーカーを発現し、その軸索は脊髄神経腹側枝の腹側端に達していること、(3)細胞死の分布とHox転写因子群の分布の関連を調べたところ、HoxC6の発現は、細胞死の分布と相補的であり、HoxC6の強制発現によって細胞死が抑制されること。そこで、平成29年度は、Hox転写因子群と細胞死との関係に着目し研究を進めた。その結果、頚髄に続く頚膨大部においてHoxC6の発現をsiRNAによって抑制しても、細胞死を誘導することはできないことが明らかとなった。これは、頚膨大部以下で発現している他のHox転写因子群も細胞死抑制作用を持っている可能性を示唆するものと考えられた。そこで、頚膨大部以下で発現しているHoxA6, A7, C8の頚髄における強制発現を行ったところ、いずれも細胞抑制作用が認められた。これに対して、頚髄で本来発現しているHoxA4, C4, A5, C5の強制発現によって、細胞死は抑制されなかった。さらに、頚髄においてHoxC6を強制発現させても、頚髄におけるHoxA4やC5の発現は影響されないことも明らかとなった。これらの結果は、Hox4-5のパラログは細胞死の実行に対して許容的であるのに対して、Hox6-8のパラログは細胞死を抑制する作用を持つことを示しており、頚髄の細胞死の起こる範囲に関してHox転写因子群が関わっていることが明らかとなった。以上の結果は平成29年末発行のDevelopment誌に掲載された。
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