研究課題/領域番号 |
15K06745
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
林 周宏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60373354)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大脳新皮質 / 層構造 / 発生 / Reelin / 細胞接着 / N-cadherin |
研究実績の概要 |
哺乳類に特有な大脳新皮質層構造は脳の高次機能を発揮するために重要であるが、その形成メカニズムは未だ分かっていない。本課題では大脳新皮質層構造の形成を司る分子機構を解明することを目的として研究を遂行している。申請者は昨年度までに既に、分泌タンパク質Reelinおよび細胞接着分子N-cadherinがこの現象に関与することを見出している。 H28年度は、ReelinがN-cadherinを介した細胞接着力を一過性に亢進すること、また、この一過的な細胞接着力の亢進が大脳新皮質の層構造形成に必須であることを共著で論文にて報告した(Matsunaga, Noda et al., 2017, PNAS)。さらに、原子間力顕微鏡を用いて、培養神経細胞のN-cadherinによる細胞接着力をReelin添加有無の状態で解析した。その結果、この接着力の亢進の制御には、N-cadherin結合分子およびN-cadherin輸送分子が関わる可能性が示唆された。そこで、Reelin誘導による細胞接着力亢進へのN-cadherin結合分子の関与をさらに検討した。具体的には、Reelin誘導による細胞凝集の形成が、N-cadherin結合分子をノックダウンすることで阻害されるか否か評価した。その結果、N-cadherin結合分子がこの細胞接着力強化に関与していることを見出した。また、N-cadherinの細胞膜輸送を制御するArhGAP32およびRabep1分子に関して同様の実験を行い、これらの分子の細胞接着力亢進への関与が小さいことを明らかにした。 これらの結果より、平成28年度は、ReelinによりN-cadherinを介した細胞接着力が一過性に亢進すること、およびその亢進が少なくともN-cadherin結合分子を介していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定していた事項について概ね予定通り解析は進んでいる。 ReelinによるN-cadherinを介した細胞接着力の変化を経時的に解析できた。また、この細胞接着力の亢進に関与する分子を同定できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究は、当該年度に得られた結果をもとに研究計画通りに行う。 研究内容としては、平成28年度に同定したReelin誘導型細胞接着力に関与する分子がどのようにReelinにより制御されるか、そのシグナルカスケードを探索する。具体的には、神経細胞をReelin刺激後の同定分子のタンパク質の量的変化、およびその修飾状況を生化学的に解析する。また、同定分子にGFP等の蛍光タンパク質を付加した融合タンパク質を神経細胞に発現させることにより、Reelin刺激前後での当分子の細胞内での挙動変化を観察する。また、子宮内胎仔脳電気穿孔法を用いて同定分子をノックダウンした時の大脳新皮質層構造形成に与える影響も解析する。 本年度は本研究最終年度になるため、これまでの結果をまとめて成果を報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたより少ないマウス数で研究を遂行することができた。また、試薬・消耗品は、割引キャンペーンに合わせて購入する等効率的に物品調達を行ことができたため、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
シグナル経路解析のため、タンパク質の修飾状況の検出用にリン酸化抗体等を購入し、当初の計画より詳細な解析を行う。また、解析の幅を広げるために、計画書で記載した予定より実験マウスの数や培養の回数等を増やして行い、多角的な解析を行う。
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