大脳新皮質は類似した性質を有する神経細胞の集団が、脳表面と平行な面で整然と並ぶ層構造を形成する。層構造の8割を構成する興奮性神経細胞は、その機能部位と誕生部位が異なる為、胎生期において脳表面に向かい神経細胞の移動が起こる。Reelinは脳表面のCajal-Retzius細胞から分泌される巨大糖タンパク質で、興奮性神経細胞の移動に必須の役割を持つことが知られている。Reelinシグナルはその受容体を介して細胞内に伝達され、細胞内アダプター分子Dab1のチロシン残基のリン酸化を介して、下流のアウトプット分子へとシグナルが伝達される。これまで、Dab1のチロシン残基の翻訳後修飾がReelinシグナルに必須の役割を持つことが示されてきたが、他のアミノ酸残基の役割はほとんど検討されてこなかった。申請者らはDab1の一次配列中に、種間で高度に保存された翻訳後修飾を受ける可能性のあるアミノ酸配列を見出し、Dab1の機能制御の可能性を検討することにした。dab1変異マウスの一つであるyotariマウスでは神経細胞移動が障害されるが、野生型のDab1のエレクトロポレーションによる導入により、脳表面までの神経細胞移動がレスキューされることを見いだした。そこでこの実験系を用いて、Dab1の様々な翻訳後修飾候補部位の神経細胞移動への必要性を検討した。吻側の大脳新皮質では野生型Dab1を導入した場合、脳表まで達している神経細胞が観察された。一方、翻訳後修飾候補部位に変異を持つDab1を導入した場合には、本来深層に分布するTbr1陽性の神経細胞層を超えられないような細胞移動障害を観察した。この結果より、既知のチロシンリン酸化以外のDab1の翻訳後修飾は、深層の神経細胞、あるいは先輩の神経細胞を追い越す際に必要となるシグナルを伝達している可能性が示唆された。
|