研究課題/領域番号 |
15K06748
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
樋田 一徳 川崎医科大学, 医学部, 教授 (40253405)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 嗅球 / 神経回路 / シナプス / セロトニン / アセチルコリン / ノルアドレナリン / 遠心性調節 / 単一ニューロン |
研究実績の概要 |
嗅球神経回路における嗅覚情報は、匂い入力、介在ニューロンなどの調節を受けていることが知られている。この以外にも、他の高次脳中枢からの遠心性ニューロン投射による調節が示唆されるが、その詳細は不明である。本研究はこれら遠心性投射経路の全貌と詳細の解明を目的としたものである。 嗅球へは、縫線核からのセロトニン、対角帯水平脚(HDB)からのアセチルコリン、青斑核(LC)からのノルアドレナリンの各ニューロンが投射する。我々はまずセロトニンニューロンを解析した(Suzuki 2015)。次にウイルスと遺伝子改変マウス(ChAT-Cre mouse)を用い、HDBからのアセチルコリン投射系について三次元的全体像からシナプス同定に至るまでの解析を論文発表した(Hamamoto 2017)。解析の過程でHDBには他にGABA系ニューロンの嗅球への投射が明らかになり、更にこのGABA系ニューロンには、parvalbumin(PV)含有及び非含有ニューロンのサブタイプがあることも分かり、現在、ステレオロジー法により空間的分布と細胞数について立体学的定量解析を、更にニューロルシダによる三次元構造解析を進め、論文発表の準備をしている。 LCからのノルアドレナリンニューロンについては、既に免疫染色によって特徴的な線維分布様式が明らかとなり、現在、遺伝子改変マウス(DBH-Cre mouse)を導入して単一ニューロン標識を試みている。嗅球には同じチロシン代謝系のドーパミン系ニューロンが存在するが、これらとの関係についても解析が進め、ノルアドレナリンニューロンの全体像と共に論文発表を予定している。 以上の結果から、3種の遠心性投射ニューロンについて、異なる投射分布様式を比較形態学的に明らかにした。今後は更に解析を進め、高次脳中枢から嗅球への遠心性ニューロン投射の詳細と存在意義を明らかにしたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
嗅球神経回路への他の高次脳中枢からの遠心性ニューロン投射系のうち、縫線核からのセロトニン、対角帯水平脚(HDB)からのアセチルコリンについては既に論文発表を終え、青斑核(LC)からのノルアドレナリンの各ニューロンについても順調に解析が進み、現在、解析データをまとめて論文投稿準備中である。これらは当初3年間の研究計画であったが、2年間で達成できている。これは、ニューロンを特異的・個別に標識する方法を確立し(遺伝子改変マウスにウイルスベクターによる遺伝子導入)、更にレーザー顕微鏡と電子顕微鏡を直接組み合わせたVolume EM analysis 及び電子線トモグラフィーによる統合的解析システムを構築できたことによることが大きい。この手法により、介在ニューロン(Kiyokage et al, J. Comp. Neurol. 2017)、投射ニューロン(Mastuno et al, J. Comp. Neurol. 2017)のシナプス解析が進み、介在ニューロンと投射ニューロンの面からも遠心性ニューロン投射系の解析が進んでおり、新たな解析の端緒が多く芽生えている。 以上の進捗状況からも、当初の計画以上に進展をしており、今後も更に一層解析を進めて行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、当初計画した嗅球神経回路への他の高次脳中枢からの遠心性ニューロン投射系のうち、青斑核(LC)からのノルアドレナリンニューロンについての解析の詰めを行い論文を投稿する。それによってセロトニン、アセチルコリン、ノルアドレナリンの各ニューロン群の嗅球への投射様式の違いを明らかにし、嗅球神経回路での役割の違いを明確にする。更にレーザー顕微鏡と電子顕微鏡を直接組み合わせたVolume EM analysis 及び電子線トモグラフィーによる統合的解析システムによって、シナプス構造の違い、受容体局在部位の同定を行い、未だ謎の多い、いわゆるVolume Transmissionについての微細構造的基盤についての解明を行う。その結果を入念に検討し、可及的速やかに学会、論文にて発表を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度当該研究費のうち約15万円余を海外旅費及び物品購入を予定していたが、研究進捗状況に合わせて購入及び自身の渡航を見合わせていた。このためこの費用を平成29年度に繰り越し、使用予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
前述のように繰り越した15万円余は、本年度において使用予定にしている。
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