本研究は、嗅覚系一次中枢嗅球における嗅覚情報処理機構について、単一ニューロン標識、三次元構造解析、そしてシナプス結合の解析を行い、嗅球神経回路の調節機構の解明を目的とするものである。 これまで、縫線核からのセロトニン 5HTニューロン(Suzukiら2015)、対角帯水平脚 HDB からのアセチルコリンAchニューロン(Hamamotoら2017)について解析し論文発表し、更に昨年度からは青斑核 LC からのノルアドレナリン NA ニューロンについて解析を始め、主に以下のような結果を得た。 DBH-Creマウスにアデノ関連ウイルスを脳定位的に LCへ注入し、NAニューロンを蛍光標識した。その後ニューロルシダで単一NAニューロンのトレースを行い、中脳網様体→内側毛帯→黒質・線条体→脳弓上部→内側前脳束→前嗅索上方→嗅球という投射全経路を明らかにした。嗅球内では、細い線維が、特に顆粒細胞層、次いで外網状層に多く、糸球体層と僧帽細胞層は比較的少ない。突起は所々数珠構造 varicosity を示し、その存在頻度は顆粒細胞層と外網状層に多かった。この数珠構造を抗 Norepinephrine Transporter(NET)抗体を用いた免疫電顕で解析すると、球形小胞と数の少ない有芯性小胞を含み、シナプス結合を形成していた。シナプスは非対称性と考えられるが、シナプス後側の膜電子密度 PSDが典型的な非対称性ほど顕著でなく、多様性に富んでいる。 これらの所見は、5HTニューロンとAchニューロンとは異なり、他の脳領域からの嗅球への遠心性調節は、より精巧であることが推測される。以上の結果は、日本解剖学会(第123回全国学術集会)にて発表し、日本顕微鏡学会(第74回学術講演会)に発表予定で、現在論文を作成し、本年7月までに投稿予定である。これまで得た知見を基に、更に解析を進めている。
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