研究実績の概要 |
多系統萎縮症は乏突起膠細胞や神経細胞の胞体・核におけるリン酸化アルファシヌクレイン陽性封入体(GCI, GNI, NCI, NNI)の出現を特徴とする神経変性疾患である。本研究では、特に乏突起膠細胞において早期より鉄代謝異常が生じ、酸化ストレスが亢進することにより髄鞘形成が障害されることが本疾患の疾患機序の一つであると考え、これを剖検例で検証することを目的とした。鉄関連染色(Berlin blue染色、フェリチン免疫染色)ではGCIs含有乏突起膠細胞や、残存神経細胞の胞体が陽性を示したことから、これらの細胞で酸化ストレスの亢進が生じている可能性が考えられ、酸化ストレスマーカーによる免疫染色を行った。malondialdehyde (MDA)、4-hydroxy-2-nonenal (4HNE)ではGCIsが陽性となったが、バックグラウンドが強いことが問題であった。このためパラフィン包埋切片での検討に加えOCT包埋急速凍結切片による染色を行ったところ、陽性強度には症例間でばらつきが見られた。陽性強度と罹病期間や病理病型(オリーブ橋小脳変性症ないし線条体黒質変性症)などの患者背景因子との間には今のところ関連は見いだせていないが、症例数を増やしてさらに検討する必要がある。また、8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)およびheme-oxygenase-1(HO-1)染色では多系統萎縮症と正常例との差が見出せず、OCT包埋急速凍結切片による染色でも有意な結果は得られなかった。以上のように鉄染色、MDAおよび4HNE免疫染色により、多系統萎縮症における乏突起膠細胞の鉄過剰状態が示唆されたが、免疫組織学の手法で酸化ストレス亢進やそれに由来する髄鞘形成障害を明示するためにはさらなる検討が必要であると考えられた。
|