研究課題
我々は自閉症病態とグリア細胞発達異常の関連を明らかにするために、社会性異常を示すCD38ノックアウトマウスにおける脳発達異常の解析を行った。その結果、CD38ノックアウトマウスにおいて大脳皮質の形成に異常があり、それがグリア細胞の発達異常であることを発見した。具体的には、以下の3点を明らかにした。1)大脳皮質の中でCD38が存在する場所を,組織切片を作製しin situ hybridization法を用いて検討した結果,生後発達期の大脳皮質の中でグリア細胞の一種、アストロサイトに特に多く存在していることを見いだした。この結果から,CD38の存在がグリア細胞の発達に関与する可能性が示された。2)上述の可能性を検証するために,CD38ノックアウトマウスのグリア細胞の発達を調べました。その結果,グリア細胞の中でも、アストロサイトとオリゴデンドロサイトというグリア細胞に発達の遅れがみられた。この結果は,CD38がこれら細胞の発達に重要な遺伝子であることを示す。3)培養細胞やCD38ノックアウトマウスを用いた実験より、CD38遺伝子欠損により、アストロサイトに異常が起こり、その異常が細胞同士の相互作用異常を引き起こし、オリゴデンドロサイトの発達異常を引き起こすことが分かった。これらの結果をまとめると,CD38はグリア細胞の中でもアストロサイトの発達に必要であり、それに異常が起こるともう一つのグリア細胞であるオリゴデンドロサイトの発達にも異常が起こるということが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
CD38がオリゴデンドロサイト分化を制御するメカニズムとしてグリア間相互作用が重要であることを明らかにし、分子メカニズムまで明らかにすることができた。さらに、オキシトシンとオリゴデンドロサイトの発達の関連も検討を行うことができた。以上の結果は、すでに米国科学誌GLIAにて論文発表を行ったため、本研究は予定よりも早く進行していると考える。
今回,我々はグリア細胞を介した脳発達の新たな仕組みを解明した。グリア細胞の発達に着目した脳の発達障害の仕組みについての研究は未だ少なく、本研究は今後のグリア細胞の研究の重要性を示すものである。今後は、グリア細胞の発達異常が行動に与える影響、オキシトシン分泌に与える影響を明らかにさせるよ手である。本研究を発展させることにより,自閉症などの脳発達障害の原因究明,治療法の開発に発展することが期待される。
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GLIA
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1002/glia.23139.
Journal of Neurochemistry
巻: 6 ページ: 1124,1137
10.1111/jnc.13714.
http://med03.w3.kanazawa-u.ac.jp/
https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp-content/uploads/2017/03/20170310.pdf