研究課題/領域番号 |
15K06759
|
研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
原 由紀子 東京医科大学, 医学部, 准教授 (40313267)
|
研究分担者 |
菅間 博 杏林大学, 医学部, 教授 (10195191)
矢澤 卓也 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50251054)
千葉 知宏 杏林大学, 医学部, 助教 (60398617)
佐藤 華子 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (60438132)
石井 順 杏林大学, 医学部, 研究員 (80749599)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 進行性多巣性白質脳症 / JCウイルス / PML-NBs / 細胞周期 / 腫瘍抑制 |
研究実績の概要 |
進行性多巣性白質脳症は、JCウイルス感染による脱髄脳症である。JCウイルスは多くのヒトに潜伏・持続感染し、免疫能の低下した宿主で再活性化する。近年我々は、JCウイルスが、乏突起膠細胞のPML-NBs(promyelocytic leukemia nuclear bodies)と呼ばれる核内ドメインを標的に感染することを明らかにした(Shishido-Hara et al, JV 2004, Shishido-Hara et al, JNEN 2008,他)。PML-NBsは急性前白血病で発見されたドット状の核内構造で、p53などの腫瘍抑制因子、転写因子など80種以上の蛋白が局在し、腫瘍抑制やアポトーシス、細胞周期制御などの機能に関与する。さらにPML-NBsは、ウイルス複製に必須ではないが、宿主細胞の変性に重要な役割を果たす可能性が高い(Shishido-Hara et al, AJP 2012)。本研究の目的は、JCウイルス感染が誘導するPML-NBsの変化を、人体組織と培養細胞レベルで解明し、ウイルス感染が誘導する細胞変性・腫瘍化の機序を明らかにすることである。 本年度の成果として、ウイルス後期領域のコードされるagnoproteinの重要性が示唆された。具体的に、感染細胞の細胞周期はS期からG2期へと移行するが、この過程でPML-NBsは腫大化して発達する。agnoproteinの欠失ウイルスでは、PML-NBsへのウイルスたんぱくの集積が起こらず、その後の細胞変性もおこらないことから、agnoprotteinが何らかの機序でPML-NBsの機能に関与し、細胞変性・腫瘍化を促す可能性があると考えられた。これを証明する為、現在、agnoprotein欠失状態でのPML-NBsの構成蛋白をアレイ解析するべく準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、Translational researchが重要視されているが、培養細胞からヒト組織に至るまで一貫性のある研究データを得ることは極めて難しい。本研究では、ヒト脳組織標本を解析すると同時に、これより得られた知見をin vitroで遺伝子変異を導入してメカニズムの解明を試みている。現在のところ、ヒト脳組織と培養細胞において矛盾のない結果が得られているという点で、順調に研究が進行していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
我々は既に、ヒト脳組織におけるウイルス感染細網のモデルとなるシステムを樹立している。培養細胞においても、ウイルス蛋白はPML-NBsに集積し、この核内構造を足場にウイルス粒子が形成される。本研究の次のステップとして、ヒト脳腫瘍組織から樹立された培養細胞にてウイルス蛋白を強制発現し、agnoproteinの有無で異なる可能性のあるPML-NBsの構成蛋白成分をアレイ比較するべく、RNAを抽出した。現在、比較検討を進めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、進行性多巣性白質脳症とPML-NBsの役割について、幸いにも既に得られたデータで小さな原稿をまとめることができた。これをいくつかの雑誌に投稿したが、残念ながらまだ受理にいたっていない。受理された場合に、出版にかかる費用が必要であったことから、また実験よりも論文執筆に追われていたことなどから、次年度使用額が生じてしまった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、投稿中の原稿を出版し、かつ実験も再開させる予定である。
|