研究課題
脊髄小脳失調症(SCA)は、歩行時のふらつきや手の震え等の運動失調を主症状とする神経変性症の病気である。小脳や脳幹の萎縮がみられるという特徴がある。日本ではおよそ3万人の患者がいるとされ、遺伝性のSCAはその原因遺伝子により約40種類に分類されている。このうち、SCA15とSCA16の原因遺伝子が1型IP3受容体(IP3R1)であることが近年報告された(Hara et al. Neurology, 2008)。また、SCA29の原因遺伝子もIP3R1であることが明らかになった(Huang et al. 2012)。さらに近年、他の脊髄小脳失調症の様々な原因遺伝子がIP3R1を介した細胞内カルシウム動態と何らかの関わりを持つことが示唆され(Ataxin2,3, PKCγ, TRPC3など)、IP3R1からのカルシウム動態異常が脊髄小脳失調症発症の中心的役割を果たすという仮説が唱えられている。そこで、本年度はIP3R1からのカルシウム放出の制御に関わる上流や下流シグナルを明らかにする目的で、SCA関連遺伝子の解析を進めることにした。まず、機能未知遺伝子のマウス脳での発現形式をin situ RNAハイブリダイゼーションをおこない明らかにした。その結果、この遺伝子の発現は、小脳のプルキンエ細胞や顆粒細胞、海馬の錐体神経細胞に多いことが明らかになった。また様々な年齢のマウスの小脳のRNAを用いてqRT-PCRを行った結果、その発現は生後P1より生後3週まで上昇し、その後成体までほぼ一定であることを明らかにした。また、培養細胞に過剰発現させ、機能未知遺伝子の細胞内局在を明らかにした。また、この遺伝子のGST融合タンパク質を作成して、ウサギを用いて抗体を作成した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、SCA関連遺伝子のin situ RNAハイブリダイゼーションをおこないマウス脳内での発現様式を明らかにした。その結果、この遺伝子の発現は、小脳(プルキンエ細胞や顆粒細胞)、および海馬の錐体神経細胞に高いことが明らかになった。また様々な組織のRNAを用いてqRT-PCRを行った結果、脳特異的に発現することを明らかにした。また小脳での発現レベルは生後P1より生後3週まで上昇し、その後成体までほぼ一定であることを明らかにした。また、培養細胞に発現させ、そのタンパク質が小胞体に存在することを明らかにできた。さらに現在までに、このタンパク質に対する抗体を2種類作成した。今後は、このタンパク質とIP3受容体からのカルシウムシグナルとの関わりを明らかにしていく予定である。
近年およそ40のSCA関連遺伝子が次々と明らかにされ、そのうちのいくつかの原因遺伝子がIP3R1となんらかの関係をもつことが明らかになってきた。このため、IP3受容体と他のSCA関連遺伝子の関連を明らかにしていくことが今後重要な課題であり、IP3受容体のSCA発症における役割を総合的に明らかにしていくことを考えている。
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Glia
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