研究課題/領域番号 |
15K06763
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
渡部 和彦 杏林大学, 保健学部, 教授 (30240477)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 運動ニューロン / TDP-43 / FUS / 筋萎縮性側索硬化症 / 凝集体 / 組換えウイルス / プロテアソーム / オートファジー |
研究実績の概要 |
我々はこれまで,TDP-43, FUS cDNAや蛋白分解系を阻害するshRNAを発現する組換えアデノウイルスをラット,マウス末梢神経に混合接種し,ウイルスの軸索内逆行輸送により運動ニューロンに細胞質内凝集体を形成しうることを報告した.そこで,より長期間にわたって凝集体形成を観察するため,組換えアデノ随伴ウイルス9型 (AAV9) を用いた運動ニューロン細胞質内凝集体形成モデルを作製検討している. 一方,ヒト正常およびC末断片DsRed-TDP-43組換えアデノウイルスを培養ラット神経幹細胞由来分化ニューロン,グリアに感染発現させ,プロテアソーム阻害剤MG-132を負荷すると,タイムラプス蛍光撮影でDsRed陽性TDP-43凝集体が細胞質に徐々に充満し,やがて細胞膜の破綻とともに細胞死に至り,残存した不溶性凝集体が放出される像が観察された.この凝集体はsarkosyl不溶性の顆粒状構造物からなり,リン酸化TDP-43を含んでいた.この不溶性TDP-43凝集体は隣接する細胞に取り込まれ,時間とともに細胞質で増大し,凝集シードとして機能することを確認した.本実験系はTDP-43凝集体の細胞間伝播を解析する上で有用と考えられ解析を続けている. さらに,上記の培養TDP-43細胞質凝集体形成モデルに対して,ヒトheat shock transcription factor 1 (HSF1)を発現する組換えアデノウイルスを共感染させたところ,リン酸化TDP-43不溶性凝集体形成が顕著に抑制された. ALSを含む神経変性疾患に対する熱ショック応答の治療応用が近年大いに注目を集めている.本研究の培養TDP-43凝集体形成モデルにおいても熱ショック応答のマスター制御因子であるHSF1の凝集抑制効果が認められ,現在,その下流候補分子の効果について順次検討を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.組換えアデノウイルス,AAV9,レンチウイルスの作製:①ヒト正常および変異TDP-43またはC末断片TDP-43,正常および変異FUS, SOD1, VCP, UBQLN2をそれぞれDsRedとともに発現する組換えウイルス,②蛋白分解系に関与する遺伝子 (PSMC1,VPS24,ATG5, ATG7) の発現を阻止しうるshRNAをEGFPとともに発現する組換えウイルスを順次作製している. 2.培養細胞における検討:ラット神経幹細胞由来分化ニューロン・グリア,またはマウスES細胞,ヒトiPS細胞由来分化運動ニューロンに,上記組換えウイルスを感染させ,凝集体の形成過程と細胞死を観察した.この凝集体形成がHSF1組換えウイルスの共感染により顕著に抑制されることを見出した. 3.成体マウス・ラット運動ニューロンにおける検討:成体マウス・ラットの顔面神経,坐骨神経に上記組換えウイルスを混合注入接種し,組換えウイルスの逆行輸送による運動ニューロンにおける細胞質凝集体の形成に成功した.また,ヒト正常TDP-43を発現する組換えAAV9を1日齢ICRマウスの側脳室に注入接種し,脳脊髄における外来性TDP-43の長期発現を認めた. 4.研究代表者は平成28年3月に前職(東京都医学総合研究所)を定年退職し,同年4月に現職に着任したため,新たな実験研究環境の整備に時間を費やし,進捗状況にやや遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
1.培養運動ニューロン・グリア細胞における凝集体形成と細胞死の解明:前年度に引き続き,マウスES細胞,ヒトiPS細胞由来分化運動ニューロン,ラット神経幹細胞由来分化ニューロン・グリア細胞培養系に組換えアデノウイルス,AAV9,レンチウイルスを感染させ,凝集体の形成過程を経時的にタイムラプス蛍光撮影,蛍光抗体法,免疫電顕により解析する.また,熱ショック関連分子(HSF1, Hsp70, Hsp40, Hsp22, Hsp110など)組換えウイルスや低分子化合物 (17-AAGなど)の細胞質凝集体形成抑制効果を検討する. 2.成体マウス・ラット運動ニューロンにおける凝集体形成と細胞死の解明:前年度に引き続き,組換えウイルスの逆行輸送による運動ニューロンの凝集体形成解析をすすめる.また,培養系と同様に,上記した熱ショック関連分子組換えウイルスや低分子化合物の成体運動ニューロン内細胞質凝集体形成抑制効果を解析し,ALSの治療法開発に繋げていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年4月に現職に異動し,新たな実験研究環境の整備に時間を要したため,組換えウイルス作製完了に伴う培養細胞実験および動物実験を次年度に行う必要がある.
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次年度使用額の使用計画 |
培養細胞実験および動物実験に必要な備品,消耗品費(総計329千円);培養器具消耗品費として,培養基材,チューブ,ピペットなどに計79千円,実験動物として,3-4ヶ月齢ICRマウス200匹,3-4ヶ月齢Fischer 344雄ラット30匹の購入に計250千円を計上.
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