研究課題/領域番号 |
15K06764
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
鈴木 康予 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 遺伝学部, 研究員 (60416188)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | α-synuclein / パーキンソン病 / リソソーム |
研究実績の概要 |
α-synucleinは140個のアミノ酸からなる可溶性タンパク質である。しかし、シヌクレイノパシーと呼ばれる一群の神経変性疾患では、本タンパク質を主成分とする凝集体が形成され、神経細胞内やグリア細胞内に蓄積する。本研究では、神経細胞内でα-synucleinが蓄積する分子機構を、α-synucleinの2つの分解系(リソソーム・オートファジーとユビキチン・プロテアソーム)から明らかにし、シヌクレイノパシーの病因解明を目指している。近年の研究によって、リソソーム病のひとつであるゴーシェ病の原因遺伝子であるβ-グルコセレブロシダーゼ遺伝子の変異がパーキンソン病の危険因子であることが明らかにされた。また、様々なリソソーム病において、中枢神経系にα-synucleinの蓄積が報告されている。したがって、リソソームの機能低下がα-synucleinの蓄積を引き起こすと考えられる。そこで本年度は、分解系のうちリソソーム・オートファジー系とα-synucleinの蓄積との関連を調べた。α-synuclein を発現させたHEK293細胞に、リソソームのpHを上昇させることによってリソソームの機能を阻害するクロロキン、β-グルコセレブロシダーゼの特異的阻害剤、α-synucleinの分解への関与が知られているカテプシンの特異的阻害剤を投与した。細胞は1%Triton X-100(TX)の溶解度によって分画し、ウエスタンブロットによって解析した。α-synucleinの増加はクロロキンを投与しても認められず、β-グルコセレブロシダーゼ阻害剤ではTX可溶性画分、カテプシン阻害剤ではTX不溶性画分でα-synucleinの増加が確認された。この結果は、α-synucleinの不溶化にはカテプシンが強く影響を及ぼすことを示唆している。一方、リン酸化α-synucleinは主にTX不溶性画分で検出されたが、いずれの阻害剤でも変化がなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はα-synucleinの蓄積について、リソソームの機能低下に着目して解析を行った。各種阻害剤を用いた解析の結果、リソソームの全体的な機能低下ではなく、カテプシン活性の低下がα-synucleinの不溶化と蓄積に大きく影響していることが明らかになった。ゴーシェ病の原因遺伝子産物であるβ-グルコセレブロシダーゼの活性低下がα-synucleinの蓄積に及ぼす影響に関してはさらなる解析が必要である。また、これまで不溶化に関与するとされてきたα-synucleinの代表的な翻訳後修飾であるリン酸化について解析を行ったが、リソソームの機能低下およびリソソーム酵素活性の低下による影響は認められなかった。カテプシン活性の阻害によるα-synucleinの不溶化に翻訳後修飾が関与しているかどうかについては、ユビキチン化やSUMO化などリン酸化以外の翻訳後修飾を検討する必要性が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
1)α-synucleinの不溶化を引き起こすカテプシンのサブタイプを同定する。 2)カテプシン活性の阻害によるα-synucleinの不溶化に翻訳後修飾が関与するかどうかについて、ユビキチン化やSUMO化などを解析する。 3)ゴーシェ病の原因遺伝子産物であるβ-グルコセレブロシダーゼの酵素活性の低下がα-synucleinの蓄積に及ぼす影響を、細胞培養条件を再考するなどして、引き続き解析を行う。 4)シスタチンCが引き起こすα-synucleinの蓄積と本年度の結果の比較検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の実験操作には研究協力者の必要がなく人件費が発生しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の使用は、消耗品購入 85.8万円、国際会議及び国内学会発表にかかる旅費・参加費 30万円、研究成果発表費用(学会誌投稿料)15万円、論文複写費 4万円を計画している。
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