α-synucleinは140個のアミノ酸からなる可溶性タンパク質である。しかし、シヌクレイノパシーと呼ばれる一群の神経変性疾患では、本タンパク質を主成分とする不溶性の凝集体が形成され、神経細胞内やグリア細胞内に蓄積する。本研究では、神経細胞内でα-synucleinが蓄積する分子機構をα-synucleinの分解系からアプローチし、シヌクレイノパシーの病因解明を目指している。近年の研究によって、リソソーム病のひとつであるゴーシェ病の原因遺伝子であるβ-グルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子の変異がパーキンソン病の危険因子であることが明らかにされた。また、様々なリソソーム病において、中枢神経系にα-synucleinの蓄積が報告されている。したがって、リソソームの機能低下がα-synucleinの蓄積を引き起こすと考えられる。 昨年度はα-synucleinを過剰発現するHEK293細胞にリソソーム酵素であるGBA、カテプシンB、カテプシンDの siRNAを一過性に導入してα-synucleinの不溶化を検討したが、明確な変化が認められなかった。そこで本年度は、まずpSUPER RNAi systemを用いてリソソーム酵素をノックダウンしたHeLa細胞株の樹立を行った。GBAとカテプシンDのshRNA安定発現株は樹立できたが、カテプシンBは本年度内には樹立できなかった。次に、GBAとカテプシンDのshRNA安定発現株にα-synucleinを過剰発現させ、α-synucleinの不溶化を検討した。その結果、カテプシンDのshRNA安定発現株ではα-synucleinの不溶化が促進される傾向が認められたが、GBAのshRNA安定発現株では認められなかった。GBAの変異が関与するα-synuclein蓄積のメカニズムの解明には、更なる解析が必要である。
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