研究課題/領域番号 |
15K06773
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大塚 俊之 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 准教授 (20324709)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | HES / 神経幹細胞 / 神経発生 / 脳形態形成 |
研究実績の概要 |
Tet-ONシステムを用いて、脳の神経幹細胞においてHes1またはHes5を高発現するトランスジェニックマウスの解析を更に進めた。Hes1強制発現マウスにおいては、深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生への移行タイミングが早まり、グリア産生も早まっていたが、浅層ニューロン産生はコントロールと比較して緩徐でより遅い時期まで持続していた。Intermediate progenitor cellsは減少を認めたが、SVZからOSVZにかけてPax6陽性;pH3陽性;pVim陽性のbasal radial glia (bRG) 類似の細胞が増加していた。また、生後および成体脳においてもSVZにPax6陽性;Hes1陽性の細胞が増加しており、doxycycline投与中止によりHes1の発現をシャットダウンすることでSVZにおける新生ニューロン (Dcx陽性細胞) の増加を認めた。Hes5強制発現マウスにおいても、深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生への移行およびニューロン産生からグリア産生への移行タイミングが早まっており、こうした移行タイミングの制御に関わる因子の発現を解析した結果、大脳皮質領域におけるHmga遺伝子の発現減少を認めた。Hes5ノックアウトマウスでは逆にHmga遺伝子の発現が増加しており、深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生への移行およびニューロン産生からグリア産生への移行タイミングが遅延していた。更にHmga遺伝子のプロモーター解析の結果、Hes5の発現によりHmga1およびHmga2プロモーター活性の低下が見られ、Hes5の発現レベルの変化がHmgaの発現に影響して移行タイミングを制御している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Hes1・Hes5強制発現マウスの解析は進んでおり、深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生への移行およびニューロン産生からグリア産生への移行タイミングの変化が認められた。Hes1強制発現マウスにおいては、皺のある脳を持つ哺乳動物に特徴的に見られるbasal radial glia (bRG) 類似の細胞の増加が認められ、脳の進化との関連が示唆された。Hes5強制発現マウスにおいては、移行タイミングの変化の要因を探り、大脳皮質領域におけるHmga遺伝子の発現レベルの変化を認め、Hes5の発現レベルが移行タイミングの制御に重要であるという結果が得られた。ただしHes1・Hes5強制発現マウスともに、神経幹細胞の維持による脳室の拡大は認められたものの、細胞増殖能の低下により皮質ニューロンの明らかな増加は認められなかったため、細胞増殖能の低下をレスキューする因子の共発現 (Cyclin D1/Cdk4強制発現マウス等) により皮質ニューロンの数の増加が認められるか検討している。human HES4強制発現マウスの解析も行っているが、これまで得られたラインにおいては軽度の脳室拡大が認められるものの、Hes1, Hes5と比較して神経幹細胞維持の活性が弱いものしか得られておらず、更なる解析が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
Hes1・Hes5強制発現による細胞増殖能の低下をレスキューする因子を共発現するマウス (Cyclin D1/Cdk4強制発現マウス等) の作出を試みる。Hes1・Hes5による神経幹細胞維持活性に加えて、neural progenitor (intermediate progenitor cellおよびbasal radial glia (bRG) 類似の細胞) の増殖促進により、進化した哺乳動物に特徴的な皮質ニューロンの数の増加および脳の表面積の増加・皺脳形成が認められるか検討する。また現在保留しているヒトの神経幹細胞株 (human NS cells) およびヒトiPS細胞の神経分化誘導過程におけるhuman HESの発現動態解析を進める予定である。更に、Hes1プロモーター活性を制御する可能性のある化合物の探索を進め、既に得られた候補化合物と併せてHesの発現量あるいは発現パターンに影響を与える化合物の同定と詳細なメカニズムの解析を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はHes1・Hes5強制発現マウスの解析を中心に行い、更にCyclin D1/Cdk4強制発現マウスおよびhuman HES4強制発現マウスの作製と解析を行うなど、動物を使った解析を中心に進めたため、培養細胞を用いた解析(ヒトの神経幹細胞株およびヒトiPS細胞の神経分化誘導過程におけるHES因子の発現動態解析、化合物スクリーニングおよび活性解析)に必要な培養試薬等の購入は次年度以降に回ることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、新たな遺伝子改変マウスの作出と解析および細胞培養試薬 (human NS cells, human iPS cells培養用) 等に用いるほか、消耗品(分子生物学用試薬・免疫組織(細胞)化学用試薬(各種抗体等)・実験動物(マウス購入・維持費用)・プラスチック製品等)に使用する。また一部はデータ整理及び成果発表にかかる費用(データ印刷・複写費、現像・焼付費、学会参加のための国内旅費)として使用する予定である。
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