本研究課題は、申請者らが近年、小脳プルキンエ細胞で発見した、カルシウム(Ca2+)放出チャネルの一種、1型リアノジン受容体(RyR1)が一酸化窒素(NO)によるS-ニトロシル化を受け活性化することで起こる新規細胞内Ca2+放出機構、「NO依存的Ca2+放出(NICR)」に着目し、S-ニトロシル化を受けない変異型RyR1を発現するノックインマウスの発現型、及び酸化シグナルがNICRに及ぼす影響の解析により、この新規Ca2+放出機構の脳における機能的役割と調節機構を明らかにし、タンパク質のS-ニトロシル化/酸化修飾による神経機能制御機構の解明を進めるとともに、その破綻に起因する疾患の同定・予防・治療へと繋がる基礎的知見を得ることを目標に立案されたものである。 H29年度までに、NICRに必要な3636位のシステインをアラニンに置換した変異型RyR1を発現するノックインマウス(以下、ノックインマウス)の作成・表現型解析を行い、ノックインマウスにおける変異型RyR1のS-ニトロシル化、小脳プルキンエ細胞内でのNICR、小脳平行線維-プルキンエ細胞シナプスにおけるLTP、回転棒テストによる運動協調能、瞬膜反射条件付け学習の消去過程(徳島文理大学・岸本泰司博士との共同研究)に阻害が認められた。これらの結果はRyR1のS-ニトロシル化ひいてはNICRの小脳機能への関与を示すものであり、その成果を論文にまとめ投稿した。 また、加齢個体由来及び活性酸素処理した小脳スライス標本では、RyR1のS-ニトロシル化及びNICRが阻害されることが明らかになった。そこでさらに、活性酸素によるRyR1阻害機構を明らかにするため、免疫沈降法とジスルフィド修飾選択的なビオチンスウィッチアッセイ法を組み合わせることで、活性酸素処理及び個体の加齢によるRyR1ジスルフィド修飾の上昇を明らかにした(論文投稿準備中)。
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