研究課題/領域番号 |
15K06778
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
山森 早織 北里大学, 医学部, 講師 (30464803)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リン酸化 / シナプス / 副腎 / ストレス / 開口放出 / SNAREタンパク質 / SNAP-25 |
研究実績の概要 |
本研究では、脳や副腎のSNAP-25のリン酸化が、ストレス機構でどのような意義を持つのかを明らかにすることを目的としている。申請者らはこれまでに、ストレスを加えると脳内でSNAP-25がリン酸化されること、SNAP-25のリン酸化が刺激依存的なドーパミンの放出を増強する可能性があること、遺伝子操作でSNAP-25のリン酸化を消失させたマウスは、強い不安行動を示すことを明らかにしている。以下に本年の研究成果を示す。 ①ストレスと副腎:ストレス刺激により、副腎皮質からCORT、SNAP-25を発現する副腎髄質からアドレナリンが放出される。SNAP-25のリン酸化が生じない変異マウスでも、拘束浸水ストレスでCORTとアドレナリンの血中濃度が上昇することを確認した。 ②ストレスの種類とSNAP-25のリン酸化:野生型マウスに長期の麻酔維持を与えても、海馬のSNAP-25のリン酸化が上昇することを見出した。調査したいくつかのストレス刺激では、血中CORT量は上昇するが、海馬でのSNAP-25のリン酸化の変化が認められないものがあった。したがって、HPA軸と脳内のSNAP-25のリン酸化は互いに独立している可能性も考えられる。脳の領域ごとに詳細な検討が必要である。 ③慢性ストレス:野生型マウスとは異なり、SNAP-25のリン酸化が生じない変異マウスでは、代謝ケージでの飼育ストレスによって摂食量の減少をおこすものが出現した。この傾向は老齢であるほど顕著に認められた。この飼育環境下で、野生型マウスも変異マウスも血中CORT量は上昇し、ストレスを感知していることを確認した。またSucrose preference testにより、変異マウスは快楽消失を起こしていないことも明らかにした。ストレスにより拒食を示す感受性の変異マウスを環境適応の機構を探るモデルとして利用できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
項目①②には遅れがあるが、項目③④では予定よりも進展している。 ①ストレスと副腎:野生型およびSNAP-25のリン酸化が生じない変異マウスの両方で、拘束浸水ストレスによる血中アドレナリン濃度の上昇を確認した。ただし、アドレナリン測定に使用したHPLCの感度がそれほど良くなかったため、群間での放出量の有意差の検討を保留としている。これはELISA法を用いることで一挙に解決できると考えている。 ②副腎髄質のSNAP-25のリン酸化の役割:目標では、変異マウスと野生型マウスのそれぞれの副腎髄質細胞を培養し、3H-アドレナリンを取り込ませて放出量を比較する予定であったがまだ取り組めていない。培養には胎児の小さな副腎を用いる予定であったが、細胞数をかせげないことが問題であった。現在は成体の副腎を用いた培養に着手しており、上手くいけば動物個体数の節約も可能になる。 ③ストレスの種類とSNAP-25のリン酸化:予算の都合により予定していたストレス刺激の一部は中止したが、順調に進展している。 SNAP-25のリン酸化が脳のいかなる状態から生じるのかを明らかにするためには、より詳細な部域の変化を見る必要があると考え、当初の計画にはなかった免疫組織化学の検討に着手をしている。 ④慢性ストレス:計画と異なる展開があったが、順調に進展している。当初は全ての変異マウスが代謝ケージで拒食を示していたが、特殊な餌箱による影響もあり、床に餌を置くことで約半数の摂食は改善することを確認した。感受性と非感受性の個体に分けて調査を行うこととした。変異マウスで快楽消失(Anhedonia)が生じていないことも明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
①副腎とSNAP-25のリン酸化の役割:血中アドレナリンの定量にはELISA法を用いる。成体マウス由来の副腎髄質細胞の調整では、作業の効率を高めるために凍結保存の検討を行う。 ②脳内のSNAP-25のリン酸化部位の詳細な解析:リン酸化SNAP-25抗体による免疫組織化学を、チラミド法などを導入して検討を行う。困難な場合には、脳の領域ごとの切り出しを詳細に行ってイムノブロットにより検出することや、新たな抗体の作成も試みる。 ストレスだけでなく麻酔や各種リガンドのアゴニストとSNAP-25のリン酸化の関係性についても調査を行い、SNAP-25のリン酸化が亢進する時の脳の状態の把握に努める。種々の抗体を入手して、関与すると考えられる受容体の変化やc-fos発現の変化にも注目する。これらの解析により、どのような刺激で、どのような回路にあるSNAP-25のリン酸化が変化するかを明らかにすることを目指す。 ③慢性ストレス: H28年度以降に、慢性ストレスによる脳内変化の網羅的プロテオミクス解析も予定していたが、現在は脳領域を限定し同定ペプチド件数と定量性の向上に努めている。進展具合と免疫組織化学の結果を照らし合わせて、遂行可能であるかを見極めることにする。それ以外に②で得た結果を参考にした免疫組織化学、イムノブロット、ELISAによる脳、副腎、血清の解析で研究を進めることとする。なお、変異マウスを用いたストレスと拒食の実験系では、ストレス反応と絶食の要素が含まれてくると考えられ、より単純な系を用意して比較検討を行う必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
野生型マウスと変異マウスの副腎髄質の培養の検討に時間を要しており、次段階で用いるマウス胚の融解移植、高価なアイソトープラベルを行ったアドレナリン(使用期限が短い)の購入を本年度は行っていない。研究計画とともに購入費用も繰り越すこととなった。 また、現在投稿中の論文の掲載費用を残していたが、これも次年次に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
体外受精による変異マウスの融解移植。副腎髄質の培養費。3H-アドレナリンの購入。 論文投稿掲載料など。
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