研究実績の概要 |
ニューロプシンは、Neuregulin-1 (NRG-1)-ErbB4 シグナルを介してパルブアルブミン陽性(PV)抑制性細胞の活動を制御する。一つの PV 細胞は、1,500 個以上の錐体細胞と結合しているため、ニューロプシンが海馬 CA1 領域の興奮/抑制バランスを制御しているか調べた。その結果、ニューロプシン遺伝子欠損マウスでは、PV 細胞活動低下による興奮/抑制バランスの増大を示すことが明らかとなった。また、このネットワーク異常が易てんかん性を引き起こす要因となっていた。こうしたネットワーク異常や易てんかん性は、ニューロプシンによって切断された NRG-1 ペプチドの投与によって回復した。このように、ニューロプシンによる PV 細胞の状態操作によって海馬機能を修飾できることが明らかになった。 次に、分子操作による恐怖記憶消去の可能性を検討した。本年度は、恐怖記憶消去に重要な脳領域である扁桃体中心核における血管作動性腸管ペプチド陽性(VIP)シグナルの操作を試みた。中心核の大部分は抑制性神経細胞であり、VIP 受容体を豊富に発現している。まず、VIP 受容体を特異的にノックダウンする shRNA を組み込んだアデノ随伴ウイルスを作製した。本ウイルスを扁桃体中心核に投与した結果、VIP 受容体の発現を約60 % 抑制することができたため、この条件下で、手がかり恐怖条件づけを行った。その結果、扁桃体中心核における VIP 受容体シグナルの変動は、恐怖記憶の獲得や想起には影響を与えずに、恐怖記憶の消去過程のみに影響を与えることが明らかとなった。
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