研究課題/領域番号 |
15K06789
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
守村 直子 滋賀医科大学, 医学部, 特任助教 (00349044)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シナプス接着分子 / 興奮性シナプス / シナプス可塑性 |
研究実績の概要 |
シナプス接着分子SALM/Lrfnファミリーは、興奮性シナプスの形成に関与し、グルタミン酸受容体のシナプス発現をコントロールする分子として知られている。その研究報告はin vitroによるものであったため、生体内におけるSALM/Lrfnファミリーのシナプス分子機能や生理的役割については明らかにされてはおらず、本研究課題に掲げた。ところが、ファミリー分子の幾つかで遺伝子欠損マウスを用いたシナプス機能解析やtrans-synapticな結合分子同定に関する論文発表が相次いだ。SALM3(Cell Rep. 2015)、SALM4およびSALM3の(Nat Commun. 2016)、SALM5(Sci Rep. 2016)。LAR family receptor protein tyrosine phosphatases(LAR-RPTPs)がSALM3とSALM5のプレシナプス結合分子であること、SALM4-SALM3のシス位結合がSALM3-LAR結合による興奮性シナプス形成誘導を抑制することが明らかにされた。 このような状況を踏まえ、今年度は、未だ報告のないSALM1/Lrfn2に絞り、遺伝子欠損マウスを用いた海馬シナプスの分子機能に関する研究結果をまとめ、論文作成作業を行った。また自閉症患者および統合失調症患者由来のヒトLRFN2のSNP変異体では本来のPSD95との会合能が減弱し、興奮性シナプスへのLRFN2変異体-PSD95の局在を低減させることがわかった。神経発達障害の発症機序を示唆する内容も踏まえ、本年度内にNature communicationsのpeer review過程に入った。Reviewerコメントに対する追加実験や実験データのブラッシュアップが完了し、平成29年5月受理に至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文作成作業、および、リバイス実験と実験データブラッシュアップを中心に行った。Nature communicationsのpeer reviewプロセスを経て、平成29年度5月に受理された。次年度成果報告に記載する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の本研究実施計画では、SALM/LrfnファミリーメンバーSALM1-5の全てをオーファンシナプスオーガナイザーと規定して、生体内におけるシナプス間隙の分子メカニズム解明を目指した。しかし、昨年度末から今年度にかけて相次ぐファミリーメンバーのシナプス結合分子の同定やin vivoにおける役割に関する論文が報告された。本年度から、未だ生理的役割に関する報告がなされていないSALM1/Lrfn2に絞り、論文発表に向けての作業を進めた。我々のまとめた研究成果、すなわち遺伝子欠損マウスの自閉症様行動異常や海馬の記憶学習機能の亢進に加え、フランスの研究グルーグからは、学習機能障害を持つ家系においてLRFN2に変異があることが報告され(Eur J Hum Genet. 2016)、またフィンランドの刑事犯罪者を対象としたGWASではLRFN2が反社会性人格障害の原因遺伝子として見出された(Trans Psychiatry. 2016)。SALM1/Lrfn2が脳高次機能をコントロールする極めて重要な遺伝子との知見が蓄積されている現況を踏まえ、今後の研究は、SALM1/Lrfn2分子特異的な神経回路網を探索し、どのような分子メカニズムで脳高次機能を制御しているのかを明らかにしていく。
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