研究課題/領域番号 |
15K06789
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
守村 直子 滋賀医科大学, 医学部, 特任助教 (00349044)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自閉症 / シナプス接着分子 / 興奮性シナプス / 神経発達障害 / シナプス可塑性 |
研究実績の概要 |
本年度はシナプス接着分子Lrfn/SALMファミリーメンバーの一つであるLrfn2/SALM1が興奮性シナプスの機能制御に直結することを明らかにすることができた。Lrfn2遺伝子欠損マウスを用いた実験から、Lrfn2がシナプス形態、維持およびシナプス可塑性をコントロールする働きを有すること、Lrfn2が欠失したスパインはサイレント(または幼若)になること、記憶・学習、社会性行動、執着性および情報処理機能においてカナー症例のような自閉症様行動または統合失調症様行動を呈することがわかった。これを受けて、自閉症および統合失調症患者由来の遺伝子サンプルを用いて遺伝的関連性を解析した。その結果、興奮性シナプスにおけるLrfn2の分子機能を減弱させるアミノ酸変異体を同定し、Lrfn2を介する発達障害発症の分子メカニズム解明の一端を提案することができた。以上の一連の研究結果をまとめて、学術論文発表および学会発表を行った(研究発表項目を参照)。 一方、ヒトLRFN2は、学習障害(LD)や反社会性人格障害、および認知症との関連性を示唆する論文がここ数年の間に相次い報告されており、ヒト前頭前野を包括する高次脳機能に関わることが明らかとなってきた。研究期間途中で異動した滋賀医科大学の研究環境を活かし、本年度は非ヒト霊長類(カニクイザル)の認知機能評価行動解析システムを構築し、それを用いた実験系確立も行った。引き続きカニクイザルを用いて、シナプス接着分子を標的とした神経発達障害や認知機能障害の新しい治療戦略の探索を進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はLrfn2/SALM1が興奮性シナプスの機能制御に直結することを明らかにし、発達障害発症の分子メカニズムの一端を明らかにすることができた。一連の研究結果をまとめ、論文発表および学会発表を行うことができた。また、発達障害や認知機能障害を標的とした新規治療戦略に向けたLRFN2研究を推進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
構造的にも機能的にもげっ歯類の脳は霊長類のものとは明らかに異なる。発達障害や高次脳機能障害の新規治療法探索にあたり、高次機能を反映する神経回路網、およびその異常で生じる発達障害や高次機能障害に対する分子標的治療開発を目指す上で、非ヒト霊長類を用いた前臨床研究の必要性が高まっている。本年度は、カニクイザルのタッチパネル式オペラントタスク認知機能評価実験の確立を進めた。今後は発達障害や高次機能障害の非ヒト霊長類モデル動物となりうる前頭前野特異的LRFN2 in vivoノックダウンカニクイザルを作製し、シナプス接着分子を標的とした新規分子治療法を探索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒトLRFN2は、学習障害(LD)や反社会性人格障害、認知症との関連性を示す報告がここ数年の間に蓄積している。研究計画で提案した神経発達障害や脳機能障害の新しい治療戦略に向けて、本年度はその基盤となる非ヒト霊長類(カニクイザル)の認知機能評価行動解析システム構築および実験系確立を行った。当初予定ではマウスを用いた研究を想定していたが、研究期間途中で異動した滋賀医科大学の研究環境を活かし、実験動物を非ヒト霊長類(カニクイザル)に変更した。カニクイザルは飼育生育環境や行動パターン、体格が大型で特殊装置を要することなど、げっ歯類とは大きく異なる実験動物である。そのため当初の研究計画よりも時間を要しており現在継続中である。次年度も続け、研究課題を完結させる予定である。
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