研究実績の概要 |
認知症に有効な治療法は未だ無く新たな分子メカニズムの探索が必要である。IP3受容体は小胞体の膜上に局在するタンパク質で、個体の発生や神経のシナプス可塑性を担う。IP3受容体は四つ組み合わさって中心部にカルシウムイオン(Ca2+)を一つだけ通す小さなイオン透過口を形成しカルシウムチャネルとして働く。IP3受容体の遺伝子変異は、家族性脊髄小脳失調症やGillespie(ガレスピー)症候群の原因となり、認知症の主な原因である神経変性にも関与していることが知られている。そのため、IP3受容体の動作原理の解明はこれらの病気の治療薬の開発につながると期待されています。しかし、既知のリガンド作動型イオンチャネルに比べて、IP3受容体のIP3結合部位はチャネル部位から大きく離れているため、リガンドのIP3が物理的にどのようにチャネルを開けるのか不明であった。本研究では小胞体カルシウムチャネルのアロステリック制御異常が認知症の機能障害や毒性機序に関与するという新しい仮説について研究を行っている。IP3受容体のアロステリック変化がオートファジーの制御異常に関わることが示唆され、この成果は共著で総説に紹介された(Autophagy, 2016)。更にこれを認知症の予防法や創薬に役立てるにはアロステリック変化の詳細なメカニズムを理解する必要がある。本研究ではアロステリック変化の動作原理を解明するため、全体の80%を占める巨大な細胞質ドメインの負染色やクライオ電子顕微鏡、そしてX線結晶構造解析を行った(PNAS, 2017)。
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