研究課題/領域番号 |
15K06791
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
濱田 耕造 東邦大学, 理学部, 訪問研究員 (00311358)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カルシウムシグナリング / チャネル / 受容体 / アロステリック制御 / ゲート機構 |
研究実績の概要 |
認知症のメカニズムは充分に理解されておらず、新たな分子メカニズムの探索が必要である。本研究は小胞体カルシウムチャネルのアロステリック制御異常と脳機能低下の関連について研究し、認知症メカニズムに関する新しい手掛かりを得ることを目的とする。小胞体の膜上に存在するアロステリックタンパク質であるIP3受容体はカルシウムチャネルとして働き、個体発生やシナプス可塑性を担い、脳の記憶や学習に関与することが明らかにされている。IP3受容体の遺伝子変異はヒト家族性脳疾患である脊髄小脳失調症やGillespie症候群の原因となり、認知症の主な原因である神経変性に関与し、IP3受容体の動作原理の解明はこれらの疾病の理解と治療薬の開発に役立つと考えられる。しかし、IP3受容体のIP3結合部位は、カルシウムイオン透過孔から90オングストロームも離れていることが最近明らかとなり、IP3が物理的にどのようにチャネルを開けるのか謎であった。 本研究課題により世界で初めて2217アミノ酸残基からなる巨大なIP3受容体細胞質ドメインのX線結晶構造解析に成功し原著論文及び総説に成果を発表し(PNAS, 2017)、これらの成果は日刊工業新聞と科学新聞そして化学工業日報に掲載された。また、この研究成果は二つの異なるGordon Research会議に認められ口頭とポスター発表を行った(GRC,2017; GRC,2018)。更にX線結晶構造解析で示唆された「リーフレット」部位の変異体を作成し機能解析を行った。結果、IP3が結合して生じる構造変化がチャネルに伝達される経路は、競争相手がNature誌にて主張したC末端では無く、リーフレット領域を介することを初めて証明した。これらの成果と最近の知見をまとめ総説論文を出版した(Annual Review of Physiology, 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の内容をまとめ、査読付きの権威ある国際誌、Annual Review of Physiology (2020) に筆頭著者として総説論文を発表した。また、共同研究の成果が査読付きの国際誌に3報出版された。特に、Annual Review of Physiology (2020)ではIP3受容体の新知見から推論される「立体構造の可塑性」と、「細胞内マイクロドメインの機能的多様性」との連関について新しいモデルを提案した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)の濃度は、細胞外から刺激を受けると急峻に上昇する。この現象は受精から発生・分化そして神経変性など様々な生命現象に関わり、Ca2+シグナリングと呼ばれる。近年、ミトコンドリアなど他のオルガネラと小胞体が接触するマイクロドメインにおいてIP3受容体が局所固有の多様なCa2+シグナリングを担うことが示された。最新のクライオ電顕とX線結晶構造解析によりIP3受容体の巨大な立体構造の全貌が解明され、リガンドやアロステリック因子の結合による動的な構造変化が示された。本研究課題のIP3受容体の新知見から推論される「立体構造の可塑性」と、「細胞内マイクロドメインの機能的多様性」との連関について、Annual Review of Physiology (2020)に新しいモデルを提出した。今後、IP3受容体の立体構造の可塑性と、認知症で生じる脳機能低下との関連を研究し、認知症の予防や治療に役立つものと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属研究室が閉鎖され、本計画の変更が余儀なくされた。これは使用計画を作成した時点では全く予期できず急遽計画を変更したため、次年度使用額が生じた。具体的には分子生物学の研究に必要であるDNA構築のための試薬と、タンパク質やペプチドの分離精製のための生化学的な試薬の購入を予定している。東邦大学内に設置済みの実験機器のセットアップやメンテナンス費用を支払う予定である。
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