研究実績の概要 |
認知症は少子高齢化社会における国際的な課題ですが、未だその発症機構は充分に理解されておらず、新たな分子メカニズムの探索が必要です。本研究では、細胞内の小胞体に存在する細胞内カルシウムチャネルに焦点を当て、認知症の分子メカニズムを探索します。小胞体の膜上に存在するIP3受容体は、四つのサブユニットが組み合わさり、カルシウムチャネルとして働きます。このカルシウムチャネルは脳機能に必須であり、記憶や学習を担うことが知られています。IP3受容体の遺伝子変異は、ヒト家族性脳疾患である脊髄小脳失調症やGillespie症候群の脳疾患の原因となります。IP3受容体は、認知症の主な原因とされるアポトーシスやオートファジー、そして細胞老化に関与するため、この受容体の動作原理の解明は、これらの過程が関与する認知症の理解と治療薬の開発に役立つと考えられます。
本研究課題では、世界で初めて2217アミノ酸残基からなる巨大なIP3受容体細胞質ドメインのX線結晶構造解析に成功し、課題期間中に原著論文を発表しました(PNAS, 2017)。この研究成果は、日刊工業新聞、科学新聞、そして化学工業日報に掲載されました。また、この研究成果は二つの異なるGordon Research会議において認められ、発表を行いました(GRC, 2017; GRC, 2018)。X線結晶構造解析によって示唆された「リーフレット」部位の変異体を作成し、機能解析を行った結果、IP3が結合して生じる構造変化がチャネルに伝達されるメカニズムを初めて証明しました。これらの成果と最近の知見をまとめ総説論文を出版した(Annual Rev Physiol, 2020)。このアロステリック制御機構は認知症の原因となるアポトーシスや細胞老化に関わると考えられ、国際共同研究を進め原著論文を発表しました(BBA, 2022, Cell Death Diff, 2022)。
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