研究課題/領域番号 |
15K06803
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鵜木 元香 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (30525374)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 初期発生 / 卵子 / 生殖細胞 / リプログラミング / UHRF1 / DNAメチル化 / ヒストン修飾 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
Uhrf1はDnmt1と共にDNAメチル化の維持に必須のタンパク質である。以前私たちは、「着床前胚におけるゲノムインプリンティング領域のDNAメチル化維持機構にUhrf1が果たす役割」を調べるために作製した「Uhrf1母方ノックアウトマウス胚」が着床前後に致死となることを見出した。これはDnmt1母方ノックアウトマウス胚よりも重篤な表現型であったため、本研究ではUhrf1のDnmt1補助因子として以外の役割を明らかにすることを目的に、連携研究者の小倉淳朗先生との共同研究でUhrf1母方ノックアウト受精卵と野生型受精卵の核置換実験をおこない、Uhrf1は「卵子形成過程において正常な細胞質形成に重要な役割を果たす」もしくは「受精後の細胞質において重要な役割を果たす」ことを明らかにした。また連携研究者の植田幸嗣先生との共同研究で、Uhrf1ノックアウト卵子から抽出したタンパク質の質量分析をおこない、Uhrf1ノックアウト卵子では細胞骨格を形成するチューブリンタンパク質の量が減少していることを明らかにした。mRNA-seq解析の結果からは、Uhrf1はmRNAの転写には大きく関与しないことがわかった。よってUhrf1はなんらかの形でタンパク質の翻訳もしくは翻訳後のタンパク質の安定性に関与しているようである。またメチローム解析により、Uhrf1は卵子成長期に起こるゲノムワイドなde novo DNAメチル化の1/4程度に寄与していること(インプリンティング領域のde novo DNAメチル化には寄与していない)、初期発生におけるゲノムワイドな脱メチル化に抗してインプリンティング領域のみならず、一部のトランスポゾン領域のDNAメチル化維持に関与していることを明らかにした(論文投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵子及び着床前胚では、Uhrf1は細胞質に主に局在することから、Uhrf1はこれらの時期に細胞質で重要な役割を果たしている可能性を考え、連携研究者の小倉淳朗先生との共同研究でUhrf1母方ノックアウト受精卵と野生型受精卵の核置換実験をおこなった。その結果、Uhrf1ノックアウト 細胞質に野生型核を移植した胚は胚盤胞期前に発生が停止したのに対し、野生型細胞質に母方ノックアウト核を移植した胚は正常に発生し、産仔が得られた。このことよりUhrf1は「卵子形成過程において 正常な細胞質形成に重要な役割を果たす」もしくは「受精後の細胞質において重要な役割を果たす」ことが示された。また連携研究者の植田幸嗣先生との共同研究で、Uhrf1ノックアウト卵子から抽出したタンパク質の質量分析を行ったところ、細胞骨格を形成するチューブリンの多くのサブタイプのタンパク質量が減少していることがわかった。この質量分析で得られた結果は、抗チューブリン抗体を用いた免疫染色で裏付けられた 。すなわち、Uhrf1ノックアウト卵子では、野生型卵子で見られるチューブリンからなる格子状の細胞骨格が消失していた。Uhrf1ノックアウト卵子のmRNA-seq解析の結果から、Uhrf1は転写レベルで遺伝子の発現量に大きくは影響を与えないことが明らかとなり、チューブリンタンパク質量の減少は翻訳低下、もしくは翻訳後のタンパク質の分解/不安定化によるものである可能性が示唆された。Uhrf1ノックアウト卵子のメチローム解析の結果から、Uhrf1ノックアウト卵子では、インプリンティング領域のDNAメチル化は影響を受けないものの、ゲノム全体ではDNAメチル化が野生型と比較して1/4程度低下することがわかり、Uhrf1がde novo DNAメチル化の一部に関与していることを明らかにすることができた。これらの実験は当初計画通りに順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
卵子形成過程においてUhrf1が正常な細胞質形成に重要な役割を果たすことは、Uhrf1ノックアウト卵子の細胞骨格が異常であることから明らかである。メチローム解析からUhrf1は成長期卵子におけるde novo DNAメチル化に一部関与することが明らかとなったが、これだけでは細胞質の異常は説明できない。Uhrf1はRINGドメインを持ち、E3ユビキチン化酵素活性を持つことから、細胞質のUhrf1がなんらかのタンパク質をユビキチン化して、分解を促進している可能性があるため、野生型及びUhrf1ノックアウト卵子から抽出したタンパク質のユビキチン化修飾の比較解析をおこなう。またUhrf1ノックアウト卵子やUhrf1母方ノックアウト胚の重篤な異常が、Uhrf1 mRNAのインジェクションによりレスキューできるかを検討する。さらに連携研究者の山縣一夫先生との共同研究で、着床前発生における発生異常の詳細を蛍光イメージングシステムで明らかにする。Uhrf1ノックアウト卵子の質量分析の結果から、チューブリン以外に、CENPFという着床前胚の細胞分裂に重要なタンパク質の量が低下していることが分かったため、CENPFの発現量の低下とUhrf1母方ノックアウト胚の発生異常の関係を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画ではサーマルサイクラー(580000円)を購入予定であったが、申請者の所属研究室が保有して共用で使用していたサーマルサイクラーの使用頻度が予想よりも増えず、このサーマルサイクラーで実験の遂行が可能であったため、購入の必要がなくなった。また消耗品の購入が当初予定より少なくて済んだため、次年度への持ち越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、所属研究室の准教授が他大学の教授に栄転するため、彼が購入し研究室で共用で使用していたUVイルミネーターやヒートブロックなどの機器がなくなるため、持ち越し分の一部はそれらの機器の購入に充てる。また研究が順調に進んでいるため、消耗品の購入も増えることが見込まれ、持ち越し分はその購入にも充てる。
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