研究課題
選択的スプライシングにより特定のRNA分解が誘導されるNMD機構 (Nonsense-mediated mRNA decay)は、分化過程での多様性の獲得および成体の恒常性維持に働く重要なシステムとして注目されている。脳神経系では多くの遺伝子がスプライシング制御を受けることが知られる一方で、スプライシング制御の破綻が発生異常および神経疾患の発症にどのように関わるのかその分子基盤は殆ど解明されていない。NMDの主要構成因子UPF1の生理的役割を解明するため、UPF1-floxマウスを作成した。特にUPF1-floxマウスと中枢神経特異的Creマウス(Nestin-Cre)を交配して作成した神経特異的UPF1欠損マウス(Nestin-Cre:UPF1-flox)を用いてNMD依存的RNA分解機構の神経発生に及ぼす影響を解析した結果、NMDは神経幹細胞の維持および正常な神経分化に重要な役割を持つことが明らかとなった。またUPF1がリン酸化を受け翻訳抑制を制御することが示されており、現在UPF1のリン酸化にも関わるインスリンシグナル(PI3K-AKTシグナル)の解析を併せて行っている。全身性UPF1欠損マウスは胎生期、神経特異的UPF1欠損マウスも出生後に致死となったため、成体で脳インスリンシグナル異常を示すアルツハイマー病モデルマウス、糖尿病モデルマウスを用いて解析を進めている。脳インスリンシグナルの異常は認知症を始め様々な精神疾患の発症に深く関わることからその下流で制御を受けているNMD機構との関連性について検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
現所属の国立長寿医療研究センターにおいて脳疾患に関わるテーマに重点を置き研究を展開している。脳内のPI3K-AKT経路に異常を来たすアルツハイマー病モデルマウス、糖尿病モデルマウスを用いて脳インスリンシグナル及び認知機能の変化、スプライシング制御の変容等に着目した解析を進めている。
今後Nestin:UPF1 cKOマウスを用いた神経分化過程での解析に加えて、成体での脳恒常性維持および神経疾患発症におけるNMDの役割を解析する。現在解析を進めているアルツハイマー病モデルマウス(変異型APPノックインマウス)や糖尿病モデルマウスにおいて脳内のPI3K-AKT経路の亢進、更にその下流で働くmTORシグナルの亢進などが観察されている。これらの疾患モデルマウスでUPF1のリン酸化状態や神経系に発現するスプライシング調節因子の発現変化にどの様な影響が見られるか解析を行う予定である。
現所属の国立長寿医療研究センターへの異動に伴い、研究計画に変更点が生じた。当初計画していた消耗品費のマウス維持経費に差額が生じたため研究経費の一部を次年度へ持ち越した。
消耗品費として免疫組織試薬、遺伝子導入実験試薬、マウス維持経費等に用いる。また得られた成果を論文発表、学会発表にて発信する際に必要となる諸経費、旅費に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件)
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