研究課題/領域番号 |
15K06805
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
北村 浩 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (80312403)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エネルギー代謝 / マクロファージ / ユビキチン / 筋細胞 / 視床下部 |
研究実績の概要 |
1)前年度の検討で、マクロファージ選択的Usp2ノックアウトマウスに高脂肪餌を給餌した場合、代償作用の影響で野生型マウスと大きな差が認められなかったことから、代わりにマクロファージ選択的Usp2トランスジェニック(Tg)マウスを用いてUSP2の作用機序を解析した。1年間の高脂肪餌を給餌した場合、Usp2 Tgマウスは体重増加が抑えられ、空腹時の血糖値が低下した。このとき骨格筋や肝臓でインスリン感受性の改善が見られたが、浸潤マクロファージ数が減少する腸間膜脂肪組織のインスリンの感受性は改善されなかった。Usp2 Tgマウスから分離したマクロファージは脂肪細胞から分泌されるメディエーターの放出を変化させ、筋細胞のインスリン応答を間接的に制御することを見出した。 2)Usp2ノックダウンマクロファージ細胞株とコントロール細胞の核タンパク質を用いて、核内でUSP2と結合するタンパク質や、USP2により機能制御される核タンパク質をスクリーニングした。中でも転写因子アレイを用いた解析でUSP2のノックダウンにより結合活性が変わる転写因子を複数見出し、さらにUSP2によりK48およびK63のユビキチン化が修飾されるものを見出した。これら転写因子の中には、USP2に発現制御を受けることが判明している遺伝子のプロモーターやエンハンサーへ結合する転写因子が含まれており、その結合活性がUSP2により制御されていた。 3)視床下部でのUSP2の定量的in situハイブリダイゼーションを行い各神経核でのUSP2発現細胞数を定量化した。その結果、弓状核のPOMCニューロンや腹内側核の食欲抑制ニューロンでの発現で絶食に伴いUSP2の69kDaのバリアントの発現が増加していた。食欲抑制ニューロンの活動抑制に関与してるのかもしれない。 4)骨格筋選択的なUsp2ノックアウトマウスを作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪細胞におけるUSP2の役割解明については遅れているが、前年度に解明に至らなかった以下1)~3)の事象について一定の結論が得られ、一つに関しては国際的学術誌に発表した。また、筋細胞におけるUSP2の機能解明のためのノックアウトマウスの作成過程にあり、次年度の研究のための準備も順調に進んでいると考えた。 1)前年度の検討でマクロファージ選択的なノックアウトマウスでは顕著な代謝機能の変化が認められず、脂肪組織マクロファージのUSP2の役割は明らかでなかったが、マクロファージ選択的Usp2 Tgマウスやその分離細胞を使用することにより役割の評価やそのメカニズムの解析が進んだ。特に脂肪組織-骨格筋の制御軸に脂肪組織のマクロファージが鍵分子としてかかわることが個体レベルで証明できたことは大きな意義がある。 2)研究代表者はこれまでに核内に移行したUSP2が標的遺伝子の転写を高めることを見出していたが、その分子メカニズムは全く明らかでなかった。本年度の検討ではUSP2の作用標的を単に明らかにするだけでなく、USP2による脱ユビキチン化で遺伝子発現制御につながるという分子メカニズムに迫る知見を得たことから当初の計画通りの成果を得たといえる。 3)前年度の検討では視床下部でUSP2を発現するニューロンの局在が明らかになったが、各神経核での発現変化は技術的に解析できなかった。従って、視床下部でのUSP2の機能については“食欲を制御する可能性がある”以上の推測は不可能であった。本年度の検討で各神経核での発現の定量性が高まることにより、より詳細な機能予測が可能になった。 4)骨格筋でのUSP2の機能を解析するためのツールの構築を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1)本年度見出したUSP2の直接的な標的となる転写因子が種々の細胞において同様に標的となるかを検討するとともに、USP2やこの転写因子を含む核内構造物の組成解析を進める。 2)現在作成中の骨格筋選択的Usp2ノックアウトマウスや、全身性のUsp2ノックアウトマウスを用いて、個体レベルでのUSP2の骨格筋のエネルギー代謝機能における役割を明らかにする。また既に作成したUsp2ノックアウト筋細胞や、ノックアウトマウスからの初代分離細胞を用いてインスリン応答性の変化を調べる。 3)Usp2ノックアウトマウスを高血糖状態や低血糖状態にしたときの視床下部の弓状核や腹内側核における神経細胞活動マーカーを可視化することにより食欲とUSP2の因果関係を明らかにする。また培養神経細胞にUSP2を導入することや、Cre発現アデノ随伴ウイルスをUsp2fl/flマウスの視床下部に感染させることにより、USP2の視床下部ニューロンでの役割をさらに明らかにする。 4)脂肪細胞選択的Usp2ノックアウトマウスの作成に着手するとともに、前年度作成したUsp2ノックアウト脂肪細胞を用いた代謝機能変化を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初申請していた金額が減額されたことから、高感度化学発光撮影装置(約140万)の購入を断念し、代わりに研究で頻用する微量分光光度計と付属のPC(約58万)とマウス飼育施設の除湿器(3.5万)を購入したため差額が生じた。また視床下部の解析ではin situハイブリダイゼーションによる形態学的な解析が先行し、Nkx2-1-Creマウスを用いた検討に至らなかったので差額が生じた。一方でUSP2やその標的分子に対する抗体やqPCR用の酵素、免疫沈降用ビーズ、プラスチック消耗品など試薬・消耗品費は予想以上必要であった。しかし学内の研究費を含め、支出経費を工夫することができたので総計すると繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの予備的検討から骨格筋選択的なUSP2遺伝子のノックアウトマウス作成にはノックアウトするタイミングを注意する必要がある。この点を加味した追加のCre発現組換えマウスの購入に充てる。また、USP2の核内作用メカニズム解析やUsp2遺伝子改変マウスの表現型解析に当初の予定以上に抗体、酵素、ELISAキットの経費がかかるためこれら物品費に充てる。また、当初の予定では論文の印刷費に4万円を計上していたに過ぎないが、購読者数の多いオープンアクセス誌や国際的学術誌の掲載費が高いためこれに充てる。
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