研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)は、長い潜伏期の後、成人T細胞白血病(ATL)、HTLV-1関連脊髄症(HAM)およびぶどう膜炎(HU)など多様な疾患を引き起こす。我々は、ヒト白血病ウイルスI型(HTLV-1)Tax遺伝子の発現が、がん抑制遺伝子DOKの発現を低下させることを報告してきた。In vitroでは、検査したすべてのATL由来細胞株で、検査したDOK1、DOK2およびDOK3のうち、DOK2およびDOK3が有意に対照としたJurkat細胞株に比較し低下していた。DOK1に関しては細胞株によって変動がみられた。Jurkat細胞に一時的にTaxを発現させるとDOK1およびDOK2の発現には変化がみられなかったが、DOK3の低下が観察された。Taxを発現するTaxトランスジェニック(Tax-Tg)においても、T細胞白血病およびHAM様症状を伴う組織球肉腫マウスで低下が観察されている。これら疾患は通常12か月齢頃から発症がみられる。今回、Tax-Tgマウスの加齢によるDOK遺伝子発現の推移を検索した。Tax遺伝子発現は、生後2か月からはほぼ一定であることがわかっている。Tax-TgマウスのDOK1およびDOK3発現は、同腹のTax遺伝子を発現していないマウス(non-Tg)と比較し低い傾向はみられたものの有意差はなかった。一方、DOK2はすでに5-6か月齢で有意に低下しており、Tax発現との関連が示唆され白血病発症の前段階として重要である可能性がある。一方、T細胞白血病を引き起こしたマウスでは、DOK1、DOK2およびDOK3が有意に低下しており、癌化にはDOK2の低下とさらに他のDOK遺伝子発現低下が必要なのか、あるいは癌化によって他のDOK遺伝子発現が低下するのか今後検討する必要がある。
3: やや遅れている
加齢によるDOK遺伝子発現についてDOK2遺伝子がT細胞白血病発症前に低下していることを見出したのは大きな成果であったが、タンパクレベルでの検証がない。マウス組織から抽出したタンパクに対する良い市販抗体を入手できなかったからである。また、DOKノックアウトマウスとTax-Tgマウスの交配による実験も計画していたが、諸般の事情により、遺伝子改変マウスの導入がきびしい状況があった。
DOK遺伝子発現レベルの検索はできたが、タンパクレベルでのDOK発現解析はいまだできていない。Tax発現にともなうDOKタンパクの発現をウエスタンブロットにより、細胞および生体レベルで実施し、DOKタンパクの関与を解析する必要がある。
DOK遺伝子ノックアウトマウスの飼育に飼料および床敷等の飼育経費を計上していたが、諸般の事情により、遺伝子改変マウスの導入が困難になったため。
DOK遺伝子の発現レベルに関しては、解析が進んだ。一方でタンパクレベルの解析については進んでおらず、主にDOKタンパクの解析経費として予定している。
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