研究実績の概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-I)は、長い潜伏期の後、成人T細胞白血病(ATL)、HTLV-I関連脊髄症(HAM)およびぶどう膜炎(HU)を引き起こす。我々は、ヒト白血病ウイルス1型(HTLV-1)Tax遺伝子の発現が、がん抑制遺伝子と考えられているDOKの発現を低下させることを報告してきた。Taxを発現するTaxトランスジェニック(Tax-Tg)マウスにおいて、T細胞白血病およびHAM様症状を伴う組織球肉腫マウスでその低下が観察されている。これら疾患は、通常12か月齢頃から発症がみられる。発症前の5か月齢で、DOK1およびDOK3発現は、同腹のTax遺伝子を発現していない(non-Tg)マウスと同様であったが、DOK2はすでに5-6か月齢で有意に低下していた。これらは、C57BL/6マウスを遺伝的背景にもったマウス群(B6-Tax)の成績であった。今年度、BALB/cを遺伝的背景にもったマウス群(BALB-Tax)を検査したところ、白血病を発症したマウスは、DOK1,DOK2およびDOK3の顕著な低下がB6-Taxと同様にみられた。一方、白血病を発症していないマウスではDOK3の低下がみられ、B6-Taxの発現パターンと異なっていた。In vitroでTaxをJurkat細胞に発現させるとBALB-Tax同様、DOK3の低下がみられる。そこで実験用マウスとして使用されているC57BL/6、BALB/c、C3H、DBA/2およびICRの各系統マウスの各DOK遺伝子の発現を調べたところ、BALB/cマウスにおいてDOK2の発現が他マウスに比べて高い傾向があり、系統差があることが明らかとなった。今後、DOK遺伝子の各系統での発現の差とTaxおよび白血病発症との関係について検討が必要である。
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