研究課題
B型慢性肝炎の治療は、核酸アナログ体の出現により顕著な進歩を遂げたが、環状二本鎖DNAウイルスであるB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus, HBV)を完全に駆除できない。臨床的には患者間や個人内での経過に幅広い多様性があり、治療に難渋することも少なくない。このような状況を克服するには、HBVの増殖を抑制するだけではなく、完全に排除する新たな分子標的が必要である。本研究の目的は、低コストで安定した動物モデルを確立することと、その動物モデルを用いてHBVが急性感染から慢性化するまでの肝組織内トランスクリプトーム変動を網羅的に解析することにより慢性化の機序を解明することである。HBVには適切な実験培養系がなく、臨床検体は倫理的問題も含め入手利用に限界がある。臨床とin vitroの橋渡しとしてヒト肝細胞で置換されたキメラマウスが現時点では最適である。その多くは一部企業が専有し、非常に高価で動物の死亡率も高い。我々は、TK-NOGマウスを用いて、独自のprotocolと移植方法の工夫で、より確実に置換率の高いヒト化肝臓キメラマウスモデルを低コスト(10分の1以下に抑制)で確立できた。HBVは肝細胞に吸着・侵入後、HBV自身に有利な環境を作りながら宿主に適応すると考えられる。特に侵入直後の段階で肝細胞にどのような変化が起きているか、十分にわかっていない。本研究でHBV感染ヒト化肝臓キメラマウスを用いて時系列に網羅的トランスクリプトーム解析を行った結果、感染後の癌関連増殖因子や免疫関連遺伝子の高発現も含めた興味深い知見が得られた。プロテオームやメタボロームの解析も含めて感染成立機序を解明することで感染阻止の分子標的を特定でき得ると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
安定した置換率の高いヒト化肝臓キメラマウスを従来より著しく抑えたコストで作成することが可能になった。この動物モデルを用いることで、HBV感染実験を以前より安易に行えるようになった。Preliminaryな網羅的トランスクリプトーム解析は終了しており、その結果、感染後の癌関連増殖因子や免疫関連遺伝子の高発現も含めた興味深い知見が得られている。現在、そのデータを発展的に確証する再現実験を行っている。Bioinformaticsにより網羅的トランスクリプトームの結果からmRNA-miRNA-small RNA-proteinの関連解析を行っており、mRNA-miRNA interaction解析及びvalidationの実験を現在進めている。また、感染初期における時系列的メタボローム解析も行っており、感染初期の病態をトランスクリプトーム解析との関連も含めて検討している。
ヒト化肝臓キメラマウスのHBV感染実験から得られた網羅的遺伝子解析データを更に発展的に絞り込む。BioinformaticsによりmRNA-miRNA-small RNA-proteinのinteraction解析を行い、その相互作用をin vitro実験系でvalidationを行う。特に感染初期における時系列的メタボローム解析による感染初期のHBV代謝関連病態を明らかにし、肝細胞膜蛋白に対する網羅的比較定量プロテオミクス技術を用いたプロテオーム解析によりHBV受容体候補を探索する。HBV初期感染から慢性感染に至る遺伝子や蛋白の動向からHBV感染成立の機序や感染初期の病態解明、及び絞り込まれた有力な分子標的候補をin vitro knockdown/overexpression実験系やヒト化肝臓キメラマウスを用いて機能解析を行い、新たな治療の発展につながり得る可能性を模索する。
本研究が開始される以前より既に一部の研究内容は開始されていた。その研究のデータ解析は本研究にも重なるため、優先的かつ重点的に行った。また、その結果により続く本研究の実験系が大きく影響を受けるためでもあった。結果的に当該年度に新規に購入する消耗品等が予定より少なく抑えられた。ただ次年度以降に続く研究には予定通りに使用する。
HBV急性感染から慢性感染へ成立する病態・機序に深く関与すると考えられる遺伝子群についてmRNA-miRNA-small RNA-proteinの相互関連性と調整機構についてin vitro実験系により詳細な検討を行う。またヒト化肝臓キメラマウスを用いたHBV感染実験からも再現・実証実験を行う。主要な遺伝子を効率良くknockdownさせることで、慢性感染を阻止でき得るかの検討も行う。
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